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家の裏の猫しか知らないような小さな路地で今日もせっせとヘーゼルナッツを拾ってる。ここは静かで、聞こえてくるのは鳥のさえずりと人々の些細な日常生活の音だけ。たまに見知らぬ猫がふらりとやってきては、わたしの仕事をちょっと覗いて去っていく。面白いのはここから自分の家のバルコニーが見えること。隣人のナタリアの生活も見えてしまう。いつも寛いでる自分の家のバルコニーは、ここの木々の隙間から覗き見ると、どこか違って見える。今日は珍しく女の人が通った。この路地を抜けたところの住人らしい。
「それ、美味しいの?」
と尋ねてくるので、
「うん、すごく」
と教えてあげた。
「ふ〜ん、一度も拾ったことないな」
と、さほど興味なさそうに去っていった。この辺りの人々はシャンピニョンやエスカルゴみたいな簡単に食べられるようなものには目がないが、栗や木の実のような殻を割ったり剥いたりするのが面倒なものはあまり欲しがらない。隣人達も木の実をもらったりすると、
「あんまり好きじゃないからよかったらどうぞ」
とくれたりする。わたしは彼らが好きじゃないのはその味じゃなくてプロセスだと知ってる。証拠にマロングラッセやヘーゼルナッツとチョコレートのペーストなどをあげると目を輝かせて食べてるのだから。確かに忙しく働いてるとプロセスが面倒かもしれない。でもわたしにとってはそういう仕事は瞑想のようなもの。無心で黙々と取り組むと気持ちが落ち着く。この冬は出産を控えてて、産んでしまったらしばらくは安静にしてなければいけないという。家事はリュカが仕事を数週間休んで全てこなすことになってる。だからその時にヘーゼルナッツの殻でも割って過ごそうかと沢山拾い集めてるのだった。
静かな一人の時間もお腹の中の赤ちゃんはよく動いて、ここ最近はもう"ひとり"とは感じなくなった。日が暮れてくると相変わらすちょっと具合が悪くなってきて、息も苦しくなってくる。横になっても起き上がってもどうにも苦しかったりする。こんなに苦しいのに、わたしの中に存在して、今は24時間一緒にいてくれるこの赤ちゃんが、もう数ヶ月したらわたしの体と切り離されて、日々独立した存在になっていくのだと思うととてつもなく寂しくなってしまう。