My life as a cat
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2020年09月03日(木) カンヌのハネムーン





































































































カンヌを訪れた。近いのに近寄りがたいセレブなツーリストの街というイメージで、いまいち興味が沸かず、これがはじめて。結婚した時にリュカの職場の人々が小さなハネムーンパッケージをプレゼントしてくれた。使用期限もあるし、出産前に使いたかった。行き先とホテルはヨーロッパ各地から選べたのだが、あれこれと都合があり結局カンヌに落ち着いたのだった。来てみたら、そう悪くはなかった。街並もビーチもそう美しい景観ともいえないけど、すべて一緒くたにひっくり返ったようなニースよりも大人びてて上品な感じで、とにかく飲食店が沢山ある。美味しものを食べて一日ショッピングというならちょうどいいサイズの街だ。朝のマルシェはなぜか外周に広げてる店の価格が高くて、内側は庶民価格。小さなスナックは充実してて、これは楽しい。見ると買わずにはいられない夏の南仏の名物ズッキーニの花のベニエをつまんだ。アーティショーや茄子のベニエなんかもあった。港の並びにあるローカルフードのレストランでランチを摂って、お茶屋さんや土産もの屋を見てまわった。カンヌ映画祭の会場の前で有名映画俳優や監督の手形を見て、陽が傾く頃旧市街の坂を登った。こんなに歩き回ったのは久しぶりだった。自分が思ってたよりずっと歩けた。あまり暑過ぎなかったのもよかったのかもしれない。最近ではお腹が圧迫されてるせいで、とにかく日中トイレが近くて、何度も公衆トイレへ駆け込まなければならなかった(無料で清潔なのはよかった)。リュカは嫌な顔ひとつせず毎回一緒に来て、トイレの前で待っててくれた。素敵な服を売る店のショーウィンドウに飾られた秋服やハッピアワーにテラスでタパスとビアを楽しむ人々を横目に見ては、ちょっとがっかりしたけど、わたしの荷持を持って、手をひいてくれる夫の優しさに気を持ち直した。夏の長い夜を素敵なレストランでゆっくり食事して過ごしたかったけど、なにせ夜になると気持ちが悪くなって味もよくわからなくなってくるから、そんなわけにもいかず、適当に買った食料をホテルの部屋で食べた。バスタブにお湯を張って浸かり、ベッドに横になったら、火照った体にひんやりしたシーツが気持ちよかった。

「わたしお腹が軽くなったらもう一度カンヌに来たいな。味覚のちゃんとした舌で美味しいものを食べて、洋服の一枚も買いたい。今日やりたくても出来なかったこと全部したい」

「うん。僕は家でべべの面倒見てるからひとりで身軽な休暇にくるといいよ」

「でも本当はべべとあなたとクロちゃんとみんな一緒に来られたらいいのにな・・・あっ、そうだクロちゃんに電話しなきゃ」

一晩クロちゃんの面倒を見てくれてる隣人のドミニクに電話した。

(ドミニクがクロちゃんの耳に電話を充てる)

「クロちゃん!いい子にしてる?夕飯食べたの?」

「・・・」

「クロちゃん大丈夫?今日はドミニク小父さんと一緒に寝てね」

「・・・」

「クロちゃん返事しないけど、耳ぴくぴく動かして尻尾振ってるよ」

とドミニク。

こうしてカンヌの短い夜は過ぎていった。


Michelina |MAIL