My life as a cat
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2019年07月12日(金) コーヒーをめぐる冒険




「コーヒーをめぐる冒険」という好きなドイツ映画がある。どこにでもいるような自分の居場所を見つけられない20歳そこそこの青年の悪運続きの一日を淡々と描いたモノクロ映画。一日のはじまりに夜を共にしたGFが聞く。

「コーヒー飲む?」

「いらない」

彼はもう彼女に興味がなくて、一緒にコーヒーを飲む気がしない。彼女の家を去り、飲酒運転で取り上げられた免許を返してもらいにいく。だが、意地悪指導員にさんざん嫌味を言われた挙句、免許は返してもらえない。やれやれ、とカフェに入って価格を確かめずに

「フツーのコーヒー」

と頼む。これまた奇天烈な店員が

「フツーって何?」

とかつっかかってくる。で、面倒なやりとりをさんざんした後、やっとコーヒーを淹れてもらえる。会計へ行くとそのコーヒーは彼の想像を超えて高い。現金の持ち合わせがなくて支払えない。無情な店員は

「ATMでお金おろしてきたら?」

という。仕方なくATMへ行き、カードを挿入する。そのカードは機械に吸い込まれたままかえってこない・・・・・。 そうやって主人公がたった一杯のコーヒーにありつくまでの話。

今日はまさにこの映画を地で行くような一日だった。早朝ニースのプレフェクチャに向かう。ニースの駅まで着いて、乗り継ぎの間に別のラインの切符を買おうと券売機に近付く。券売機の数が明らかに少ない。電車までの時間に間に合わないとパニックに陥っている人がいっぱい。無事に切符は買えたが、刻印機もこれまた少ない。しかも刻印にはコツがあって、一元のツーリストは何度も何度も首を傾げてトライする羽目になる。前にいた人々を助けてあげる。そして自動改札。これまた機械がうまくバーコードを読み取らない。みんなつっかえて何度も何度も試してる。結局ひとりがうまくバーコードを読み取れて、扉があくと雪崩のようにみんな滑り込んでしまうという杜撰なエントランス。なんとか時間内にホーム内に入る。停まっていた電車に乗ろうとすると何故か屋根から水がぽたぽたと落ちている。濡れないように気をつけて乗り込む。念のためトイレを済ませておこう。トイレに入ると鍵が壊れてる。リュカに外に立っていてもらう。そしてトイレット・ペーパーがない。この国に来てからまともに動く人や物のほうが少ないので期待もしてないが、朝から遭遇するもの全てが壊れてるとさすがに疲れる。そして9時にプレフェクチャに辿り着く。長いラインに並んで、結局できたことは9月にランデヴーがとれただけ。盗まれた滞在許可証については、

「そうね警察に提示求められたらリスキーね。でもわたしは何もできないから」

それで終わり。紛失届を提出して、再発行を頼んだところで、再発行を待ってるうちに更新のランデブーの日になるのが目に見えてる。もうどうにでもなれという気持ちでニースに戻る。ランチだけはツイていた。人気のサンドイッチのお店へ行ったら、なかなか美味しかった。さて、カフェとデザートをしに行くかとお気に入りのレストランへ行くと、食事なしでは入れないという。この店は食事とデザートの価格が同じくらいする。食事してデザートなしはいいのに、デザートだけはダメなんだと。こうしてカフェを逃す。買い物をあれこれと済ませて、夕方ジェラートを食べる。あっ、カフェあった。でも電車の時間まであまりないし、ゆっくり飲みたいから、やめておこう。あとで駅の自動販売機で買って電車の中でゆっくり飲もう。そうしてまた見送る。そして駅へ行くとなんと全ての自動販売機が壊れてた。

こうしてさんざんな一日、結局やっとカフェにありついたのは午後7時。夕飯前だった。

映画で、主人公がやっとコーヒーにありつく場面。この場面のためにモノクロ映画にしたんじゃないかと思うくらい、紙カップから湯気をたてるなんの変哲もない病院の自動販売機のコーヒーはいかにも美味そうだった。わたしのカフェだってそれはそれは味わい深かった。

(写真:ニースの海岸通り)

Michelina |MAIL