My life as a cat
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2019年06月21日(金) 天使に会う

いつもいく小さな八百屋。おっとりしたおにいさんは、わたしがのろのろと喋っていても最後まで耳を傾けてくれて、いつもパセリなどのハーブを付けてくれたり、新しい野菜の食べ方を教えてくれたりするんで好意を持っていた。この町の店は(ドミニクに言わせれば南仏とそれ以南の国全体)、どの店も三度に一度くらいの頻度で会計ミスする。釣り銭が違う、果物の籠ごとスケールに乗せてる、スケールが壊れてる、表示価格と会計時の価格が違う、釣り銭がアメリカドルなどなど。この八百屋もそれは同じだった。店も店なら客も客。価格もろくに見ずにバスケットにぼんぼんと放りこんでるし、誰一人としてレシートと品物を付きあわせて確認したりしない。細かく間違いを指摘するわたしはちょっと変わり者なのだろう。この八百屋でも何度か指摘した。これまでは"Excuse-moi"といって差額を返してくれたのだが、今日は明らかに面倒くさそうな表情でお金は返してくれたが、謝りもしなかった(そもそもわたしは"Excuse-moi"は謝罪の言葉としては認めたくないのだが)。彼にこんな失礼な態度をとられたのはすごくショックだった。チェーンのスーパーマーケットでは短期契約の若い女の子などは間違いを指摘しても"C'est pas ma faute(わたしのせいじゃない)"というだけで、何が間違ってるか見ようともしないのだから、おかしな人達の沢山いる国ですね、と呆れるのみだが、この八百屋で同じような目に合うとは思いもしなかったのだった。でもこの小さな町では町と結婚したようなもの。嫌な店と思ったって嫌な人と思ったって、じゃぁ他に行くというような選択の余地はなく、これからも付き合っていく以外にないのだ。

心がどんよりと沈んだ日。こんな日に限って、行く店全部で会計ミス。すっかり疲れ果ててしまった。ここで日本人のような細かさで生きているわたしが悪いのだろうか。

「絶対にそんなことはない。間違うほうが悪いのだから、君はそのまま続ければいいよ。ただダーウィンは"唯一生き残るのは、変化できる者である"って言ったけどね」

とリュカ。変わらなければいけないのは彼らではなくわたしなのだろうか。

その日、曇った心にぱっと光がさすようなことが起きた。家の前の通りで3mくらい前を見かけない中学生くらいの女の子が歩いていた。中性的で男の子みたいな服装で、綺麗なブロンドの髪の毛は細くてくるくるにカールしてて天使みたい。その子がふと振り返ってわたしを見て、動きを止めて立ち止まった。この辺りの子供は珍しがってわたしの顔をじっと見たりするから、いつものことだろうと思っていた。が、違った。この子は物怖じせずまっすぐわたしの目を見て、こう言ったのだった。

"Vous êtes très jolie(あなたはすごく綺麗)"

この子こそ肌も歯も真っ白でぴっかぴっかで本当に綺麗なのだもの。しかもその堂々とした物言い。とっさに

"Merci"

と返すのが精一杯だったが、一瞬で恋に堕ちたような気持ちになったのはいうまでもない。彼女は天使なのかもしれない。落ち込んだわたしを慰めに降りてきたのではないか。それくらい彼女は威光を放っていて、その一瞬のすれ違いは大きな印象を残したのだった。


Michelina |MAIL