My life as a cat
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2019年02月26日(火) 健康は美しさだ

数日前ワードローブが壊れて、新調しようと考えていたところ、町の掲示板に素敵なアンティーク調のものが売りにだされているのを見つけた。まずは現物を見たい。リュカが電話をかける。すぐに迎えにきてくれるという。

「年配女性でちょっと聞きなれないアクセントがあるからフランス人じゃないと思う。名前はドミニクで青い車で来るって。妻はフランス語がまだ流暢じゃないけどゆっくり話せば解るっていっておいたから」

そう言い残してリュカは仕事にでかけた。

待ち合わせ場所に立っていると、青い車が目の前に停まり中年男性が顔を出す。電話にでたのは奥さんで、きっと旦那さんが迎えにきたのだろうと勝手に解釈して乗り込む。車中でお互いに自己紹介する。なんと、彼がドミニク本人だというではないか。確かにすごく女性的でソフトな話し方。

「英語は話す?」

「はい。英語は問題ありません」

「なら簡単だ。僕はアメリカ人なんだ」

車中であれこれと話す。LA出身でアメリカを50年前に去ったこと、ヨーロッパで今のパートナーのイギリス人男性(つまり彼らはゲイ・カップル)に会ってそれ以来二人でヨーロッパのあちこちに住んで、結局この町の山の中腹に家を買ったこと、など。彼はとても繊細な気遣いを見せる。

「恐がらせるといけなから事前に伝えておくよ。今、家にひとり男性のゲストが来て泊まってて、だから家にもう二人男がいるからね」

車はローズマリーの生い茂る庭に入っていき、大きな邸宅の前で停まる。山の中腹で見晴らしは最高。空気も美味しい。この辺りではスタンダードな古い蔵を買って、自分達で内装を作り上げたという邸宅は、リビング雑誌から飛び出したようなセンスの良さ。広々していて、風通りがよくて、この辺りでは珍しいカリフォルニア・スタイルな家。中からパートナーのジュールスがでてきて出迎えてくれる。

「紅茶はいかが?イギリス人は紅茶の時間よっ」

数分棚をチェックして、紅茶をいただく。添えられたビスケットはマクビティ。

彼らが日本で旅行した時の珍道中やら、この町に来た時の話やら、仕事の話をあれこれと聞く。そして彼らは30年以上ヴェーガンだとも。きっと、しっかり自宅で料理して食べているのだろう、キッチンにはスパイスがずらりと揃えられている。ドミニクさんはリタイヤして数年経ってるというから60代。ジュールスさんはおそらく50代。ところがこの二人からは"年配男性"特有の加齢臭などは漂わず、傍によるとほんのりパフュームだけが香る。体もフィットで肌艶も良く年齢よりもずっと若く見える。まさに"I Love You Phillip Morris"のジム・キャリーとユアン・マクレガーみたいな雰囲気。明るくて、幸せそうで、几帳面ゆえにビジネスでも成功しているからこんな素敵な邸宅を構えられるのだろう。この町に来てから、前の通りでみかける人々といったら、着ている服はちょっと汚れた風で、いつも片手に煙草。午後4時、カフェは酒を飲む人で満員御礼でわたしの通う図書館などはがらがら。肌も髪もぼろぼろで、年齢よりもずっと年上に見えるし、病気になった、手術しただのという人ばかりだった。ここへ来てはじめてこんな東京都心のオフィス街を歩いている日本人みたいなきちんとした人を見たのだった。わたしは肉を食べるのをやめて約20年。今はまだ若いから健康そのものだ。たまにプロテインが不足する、とか、ヴェジタリアンは偏ってて不健康だという意見も聞く。医者でもないわたしには真実は判らない。でも彼らを見て自信が湧いてきた。

翌朝、電話を入れる。

「購入することに決めました!ただ問題があって・・・。どうやってここまで運んだらいいのか考えてて」

「そうね、ジュールスと相談して電話折り返すわ」

午後4時。突然彼らが自宅にやってきた。

「うん、ここは通れそうね。ここもOK」

搬入が問題ないかを事前にチェックしにきたのだった。さすが几帳面。そして、

「この棚はどかしといてね。1時間後に運んでくるから」

そう言い残して、そそくさと去って行った。なんという機敏な行動力。アマゾンのデリバリーより迅速。わたしはせっかちだから、こういう人々が大好き。

大急ぎで今あるワードローブを崩す。組立式の家具というのは持ち運びが楽という良い面もある一方で、一般素人が組立できるような簡単な作りで壊れやすいのが難点だ。そこそこ値のはる日本製の組立式家具ならまだしも、フランス製なんて、、、、高くてもなかなか信頼できない。そう学んで、今回は崩せないものにしたのだった。

ピックアップトラックで彼らがやってくる。男5人。棚を持ち上げてるふたりは彼らの友人で、トラックを持っているので頼んだのだという。ふたりはわっしわっしと棚を持ち上げているのだが、ドミニクさんはご丁寧にわたしのことをこのふたりに自己紹介している。どうみてもストレートなふたりは、ぶっきらぼうに"アンシャンテ"とだけ返してくれた。

こうして、見物に行ってから24時間以内に新しい棚がやってきたのだった。

まだ支払いをしていないから週末に再度彼らの自宅へ届けに行く予定。彼らはデリバリーまでしてくれたのに、当初の提示額でいいと言う。

「申し訳ないな。少し多く支払いたいんだけど」

とリュカ。

「でも、きっと一度要らないっていったら受け取ってくれないと思うな」

こんな会話があった。

今朝、バゲットを焼いたらたまたま男性器のようなシェープになった。

「これ手土産にするか」

ふたりでにやりとする。

こうして出会ったゲイのふたり。不思議なことだけど、この町に越してきて、はじめてそのオーラの美しさに見惚れてしまったのは、年配男性ふたりだった。


Michelina |MAIL