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リュカの患者さんの話。いつも自分の犬の糞をそのままにして去っていく人に注意したところ、
「俺は税金を払ってるんだぜ!」
と怒鳴りかえされたというのだ。わたしだったら、
「わたしだって税金払ってるわよっ!で、なんで他人の犬の糞だらけの環境に暮らさなきゃならないのよっ!」
と言い返しただろう。彼女は呆れて何も言い返せなかったそうだ。
「チャーリー・チャップリンの“You'll never find a rainbow if you're looking down”という言葉、すごく好きなのよ」
と言ったらリュカがひとこと。
「でもね、この町では下を向いて歩かないと犬の糞踏んじゃうんだよね」
愛だの花だのロマンスだの美食だので有名なフランスが一方では犬の糞で有名だなんて本当に残念だ。だが、"税金を払ってるから"と環境を乱して、税金から給料が支払われている市の清掃職員がその始末をするべきだと考える人がいるのだ。リュカの知人(しかも、ちゃんとした良い教育を受けた人)はゴミの分別をちゃんとせず、なんでも適当に放りこんでしまう。リュカがどうしてちゃんとやらないのだと聞くと、
「俺がそんなことやってしまったら清掃職員の仕事がなくなってしまうだろう」
と答えたそうだ。まぁ、こういう人はフランスだけでなく日本でもいる。必要以上に公共の場を汚していく人。叔父のレストランを手伝った日のこと。子連れの客が、子供がめちゃくちゃにあれこれひっくり返したテーブルをそのままにして、知らん顔して帰ったことがあった。ウェイトレスの仕事は通常に使用されたテーブルを片付け、布巾で拭うことであって、他人の嘔吐の始末やめちゃくちゃに使用されたものを片付けることではない。
日本にもいるといっても、こんなアイディアを持っている人は欧米のほうが断然多い。煙草の吸殻を通りに投げ捨てることがいけないことだと思っている人はいないようだ。翌日には通りに轟音を響かせて巨大な清掃車がやってきて水で全部洗い流していく。多額の税金を払っているから、通りを汚す。通りが汚れるから清掃に多額の税金が費やされる。鶏が先か卵が先か。
「ドキュメンタリー番組で見たのよ。なぜ日本の町はゴミも糞も落ちてなくてクリーンなのかっていうサブジェクトで。あなた達は子供の時から学校で自分の教室を自分達で掃除するのでしょう?だから自分の汚したものは自分で片付けなければいけないという精神が身についているのでしょう?」
とクリスティーヌ。その通り。朝に15分クラシカル・ミュージックが流れて、みんなモップやら箒を手に掃除をしたっけ。欧米では清掃職員が全てやるので、子供は学校で掃除を学ぶことはない。
いつかインド人の同僚達に注意したことがあった。社内の廊下で落とした食べ物を自分で拾わずにそのままにして去っていくとかそういうのはダメよ、と。お金持ちの息子である彼らはサーヴァントがいる家で育っているから、日本へ来てひとりで暮らし始めてもなかなかその癖が抜けない。
自分の身の周りのことを自分でちゃんと片付けられないなんてだらしなさすぎる。日本人だってできない人はいるけど、外国にでるとそんなの比じゃない、と気づく。学校でも家でもお片付けを叩きこまれたことは、今となっては宝だ。