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会社の裏のブッシュに住み着いている黒のノラ猫が人間に姿を見せるようになり、おなかがすいたよぉ、と食べ物をねだるようになって数週間が経っていた。というのも、うちの部の新人君が見るに見かねて食べ物をあげるようになったせいだ。彼は猫を飼った経験なし。まったくもって得体の知れないものばかりをあげているので、こちらも見るに見かねて忠告した。
「パンとかイーストの入ったものはダメよ。ツナサラダにもオニオンが入ってたらダメよ。第一食べ物をあげるくらいなら里親も探してあげなきゃダメよ。それでなきゃあまりにも無責任よ」
と。素直なお坊ちゃまな彼はそれ以来毎日わたしのところに黒ノラにあげた食べ物とまだ里親が見つからないという報告をしにやってきた。20代後半の年頃の男の子が毎日ノラ猫のことで頭をいため、
「僕の今一番の悩み事なんです。僕が猫が飼えるような庭付きの一軒屋に住んでれば・・・・僕一生懸命働いていつかそういう家を買わなくちゃ!」
などとぼやいているのを半分苦笑しながら半分は微笑ましく聞いていた。
それが今日里親が決まって引き取られていったとの報告を受けた。それも見ず知らずの人ではなく、彼の背後の席に座っている女性の知り合い。それなら安心だ。
黒ノラは体は小さく栄養失調気味だったが、2年前くらいに一度見かけたことがあり、成猫だろうと踏んでいたのだが、獣医に連れて行ったらやはりそうだったとのことだ。何度か越冬したのだ。寒い冬を食べ物もなくどうやって凌いできたのか。今年の冬はおなかいっぱい食べてコタツの中で家族とぬくぬく過ごせるのだ。彼と巡り合えたことでこのコの運命はがらりと変わった。今までおなかを満たすのさえ苦労した分幸せになって欲しいな。彼のほうも我が子を養子に出すような様子で、
「たまにでいいんで、どうか写真を送ってください」
などとお願いしていた。みんな苦笑していたが、当人は至って真剣である。
黒ノラを知り合いに受け渡した女性が、わたしが彼に渡した猫が水を飲むための器を、猫は慣れたものが好きだからあの器をください、代わりに・・・とお手製の愛らしい紙袋にお菓子を入れてもってきてくれた。心がぽかぽかとあたたかい秋の一日でした。