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北野武が著書の中で、"優先席なんて概念がおかしい。どの席だって全て優先席だよ。年寄りや体の不自由な人に席を譲るなんて当然だろう"というようなことを書いていたが、まったくもって同感だ。
電車で座っていたらピンと背筋は伸びているけれど60歳を超えていることは明白といった見た目の男性が乗ってきたので席を立った。
「ごめんね。ありがとう!」
彼はにっこりして座った。一日歩いてぐったり疲れていたわたしは立って壁によっかかりながらうとうとと目をつぶっていた。と、先ほどの男性が肩を叩いた。
「席が空いたよ」
今度はわたしがお礼を言って座った。彼が電車を降りる間際に近づいてきて言った。
「席をゆずってくれてありがとうね。今まで譲ってもらったことなんて一度もなかったからすごく嬉しかった。こう見えても73歳で最近はひざが弱っちゃって。助かったよ。気をつけて帰ってね」
「あら、若く元気に見えるからなかなか譲ってもらえないのかもしれませんね。どういたしまして」
と返したものの、本当は譲ってもらえない理由はそこじゃないことは明白だ。当たり前のことをしたのにこんなに感謝されてしまう東京の風潮に暗澹たる気持ちになりながらも、一方で自分の些細な言動で見ず知らずの他人を笑顔にしたことが誇らしかった。
そういえば、以前つきあっていたヨーロッパ出身の彼を連れて日本に来たとき、彼は女子高生に席を譲っていた。
「子供と女性とお年寄りには席を譲るのがマナーでしょ?」
ところかまわず、つけまつげと化粧に熱中する女子高生よりも1日8時間しっかり労働してる彼のほうがよほど座るに値するような気もしないでもないが・・・。席を譲ってもらった女子高生は、つけまつげをばさばさと動かしながら、"オモシロイガイジン"とでも言わんばかりに彼をちらちらと盗み見ていた。