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2012年08月22日(水) |
エルちゃん天国へゆく |
残業が長引いてどっと疲れて家に着いた時、電話が鳴った。母からだった。元気?仕事終わるのずいぶん遅かったね。暑くて寝苦しいでしょ。いつもの他愛ない会話の途中であまりにも自然に母に告げられた。
「日曜日にね、エルちゃん死んじゃったの」
13年生きて、ここ1ヶ月くらいは母と妹がつきっきりで足腰の不自由になったエルちゃんの面倒を見ていた。虫の知らせなのだろうか、先日、ふと思い立って実家に戻った。近いといえども正月以来だ。庭の木陰にぺっとりと体を横たえて、横目だけで久しぶり、というような合図を送る彼をみた。一緒にビーチで泳いだのははるか遠い昔のことのように思えて二度と戻らない時間を惜しんだ。頭を撫でてもあまり反応がなかった。
最後の3日間は口まで運んであげてもごはんを食べず、3日目の夜さすがに心配になった母がもしかしたら、とサイコロ状になったビーフを買ってきて口に運んだらぺろりと平らげたそうだ。その翌朝、母が彼の大きな体を持ち上げて木陰に連れていき、さて、出かけて来るからね、と振り向いたら息が止まっていたそうだ。サイコロのビーフはまさに"最後の晩餐"となった。
半分老衰のようだった愛犬の死はあまりにも自然で涙もでない。しかし、彼がこの暑い夏に死んでいったことだけが悔やまれる。彼は雪山救助犬のようなブリード(グレート・ピレニーズ)で、元来こんな蒸し暑いアジアの夏に耐えられる体にはできていない。父が彼を買ってきた時、わたしは猛反対した。夏がくるたびに分厚い毛皮を着て、人生が面倒になったというような顔をしている愛犬はあまりにも場違いに思えて気の毒だった。彼は雪が大好きだった。雪が降るとその中を走り回って大はしゃぎした。数年前には足に癌が見つかって手術をして、ケロリとした顔で帰宅したりもした。
父にはもう二度とこの気候を生き抜くのが困難な外来種の動物を飼わない(買わない)と約束してもらった。父も老人がこんな巨大な老犬の介護をする大変さがわかったのだろう、反論しなかった。
エルちゃんの天国にはいつも雪が降っているだろうか。