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「喪失の国、日本 −インド・エリートビジネスマンの日本体験記」
という本を読んだ。90年代の日本体験記なので風俗が少々古いこと、日本人が書いたフィクションだというような論争はあるものの、どのみち興味深く存分に楽しむことができた。日本人がインドであれだけ衝撃を受けるのだからその逆も然り。特に「つがい」に対する記述など自分の周囲の人を思い出すとぴたり合点がいく。
インドでは男女は互いに一対の神であり、別れはごくわずかな例外をのぞいて死別以外にない。それどころか、かつては夫が死ねば妻も共に焼かれたものだ。神の愛に終わりがないように人間の愛にも変更も終わりもない。それがヒンドゥー教における「つがい」の解釈である。しかし日本のつがいには終わりがあり、それはいとも簡単に、突如としてやってくる。
マーヴの友達のインド人の男の子は単身でオーストラリアに移民していたが、大学をでたら親がずっと前から決めていた女の子と結婚するのだと言って(婚前に一度別の女の子と遊びたいなどとも言っていたが結局願望だけにとどまった)、就職が決まったら奥さんが突然やってきたのだ。わたしはよく知らない人といきなり同じ未来を見つめて暮らしていくという感覚が不可解だったけれど、それから1年後、彼は、
「結婚っていいね。毎日女の人と寝られるんだ」
と当たり前だけれど、なかなか珍しい感想を述べてくれた。奥さんのことを心から尊敬して愛しているようで"選べない"、または"選ばない"という不自由はかえって幸福なことなのではないかと思った。当然だが他のカップルと同然、夫婦間の問題もあるようだけれど、彼らには別離という選択はない。ひとつひとつ丁寧に問題を解決していこうという姿勢に心を打たれた。こういう点でわたしはマーヴと出会ったことは幸運だったのではないかと思う。彼はインド人でもヒンドゥーでもないし、相当ウエスタナライズされているとはいえ、中国人と日本人の関係のようにベースの部分で通ずるところはあるようで、こういうところの考えは近いものがある。欧米人とそして自分の関係に対する見切りのはやさに疲れてきていたから、マーヴのアイディアは斬新でいちいち驚きながらもすっかり影響を受けて選択の余地を感じなくなり、悩みはしても迷わない、逆に精神的な開放を享受したのだった。