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早起きしてバスの窓にへばりついて何度も降りる場所を確認して、徒歩ではきつい巨大な敷地内を彷徨いながらひとりで昨夜マーヴが送られた病棟へやってきた。
昨日は生理前の鬱に悪天候が重なって些細な悪運も大きな悲劇のようにぽろぽろ泣いて日中を過した。何度も電話をしてきては優しい言葉をかけてくれるマーヴだけが仄かな灯だったのに、夕方にもう一回電話するね、just to say I love youと言ったきり連絡がなくてその言葉ももらえなかった。故意に約束を破ったりする人ではないから電話が混んでいたんだろうとかそう思ったけれど、こんな日はそれだけで何もかもに見放された気分になってしまう。ベッドに入っても体が火照って眠れないまま寝返りばかりうっていると電話が鳴って色んなことがひっくり返った。マーヴからだった。こんな夜中にどうしたのよ、と驚いていると、病院に送られて(大したことはない)面会も許されてるからとアドレスのみをメモさせられて電話を切った。時計を見るとまだ日付が変わっていなかった。わたしは小さな男の子と砂場で真剣に未来を誓い合っているような気にさせられる心の幼いマーヴの空気に完全に染まってしまったのかもしれない。今日のI love youをちゃんともらえたことに胸をいっぱいにしてベッドに戻った。
結局午後にならないと面会できないと言われたので待つことにした。売店でスナックを買いこんで芝生に寝転がっていた。精神科が主なようで病んではいるけれど凶暴性はない患者のみ敷地内を自由に歩けるのか、おなかだけが妙に出っ張っていたり、手を常にぶるんぶるんと振っていたりあまりにも個性の強い見た目の患者が穏やかにへらへら笑ったりしながら周囲を歩き回っている。セサミ・ストリートのような世界だ。しかし何故だか妙に心地いい。自分も実は精神をやられているのだろうか、それとも単に喧騒から離れて緑や花に囲まれているからだろうか。ゆっくりゆっくりのそりのそりと歩く彼らを見ていると"正常"という基準が解らなくなってくる。彼らのどこが異常なのか。せかせかと朝から晩まで機械のように働く人間は正常なのか。この待ち時間にわたしの中で色んなことがどくどくと動いてしまった。
面会は個室が与えられた。スポーツしてからシャワーを浴びてきたと髪が濡れたまま現れたマーヴはプリズンにいる時よりも元気そうで、ここにきて半年ぶりに念願のバナナを2本も食べたのだと目をきらきらさせていた。