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2007年09月19日(水) |
たとえ"One of them"でも |
通勤途中にこつこつと早川良一郎著「さびしいネコ」を読んだ。1919年生まれの著者がサラリーマン生活を全とうし定年退職してから綴ったエッセイ。運命に激しく抗うこともなく、しかし意思にそぐわないものには染まりきらず、置かれた状況の中で静かに眼前を見据えてユーモラスに書かれた文章に腹の底で小さな笑いが沸き起こる。
春に帰国したばかりの時、京葉線に乗って外を眺めていた。鉄道橋の上を走っているから一軒家なら上から見下ろすことになる。東京駅も近くなってくると新興住宅地が見えて平行に敷かれた何本もの通りにぴったりと同じ住宅が等間隔で整然と並んでいるのが見えて、それは軍隊の行進を彷彿させて咄嗟にぞっとした。わたしはあぁいう無表情にピタリと揃えられたものが恐い。きっとその中のひとつひとつには個性があってあの家々の中にはそれなりの幸福があるに違いない。ただその時、英語でいう"One of them"のような漠然とした代わりはいくらでもあるような表現で示されるような存在になりたくはないと強く思った。
隣近所もみんな違った顔つきをして違った習慣で暮らしているパースでは自分がOne of themと感じる機会はないけれど、ここではあらゆることで整列させられてしまう。サラリーマンやOLという職業を形容するとき前に"フツーの"とつけられることが"フツー"だ。わたしはこの著者のように整列させられて真直ぐ前を向かされても誰にも気付かれないように口元だけニヤリと笑っている人でいたい。