不合格通知
プラチナブルー第4章 辰巳リカ編
April,5 2045 『You failed in this examination.リカ様。今回の試験の結果は、不合格でございます』 リビングの北側に映し出された立体映像の中、 いかにも執事風の初老の男が微笑みながら語りかけてきた。 「よくもそんな残酷な台詞を笑顔で言えるものね」 私は右手に持っていたフォログラム用のコントローラーを男めがけて咄嗟に投げつけた。 勢いよく宙に飛び出したその小さな機械は、男の右耳あたりをかすめ、 そのまま立体映像をつきぬけて奥の壁で見事に粉々になった。 壁には、その衝突が初めてでないことを示すように小さな傷が3つあった。 「ああ、悔しい」 その悔しさは男に命中しなかったためではなく、狙った壁の箇所を外したからでもない。 不合格を突きつけられ、怒りや悔しさ、そして自分の不運や不甲斐なさの混じった感情が 一気に噴き出してきたからだ。 無意識に左手で髪をかきあげながら、フォログラムの前で右に2歩、反転して左に2歩、 それを2度繰り返して立ち止まり、男を上目遣いに見据えた。 「ねえ、次の試験はいつ?」 私は両腕を広げ、懇願するように男に尋ねた。 『次回のミッション公募は未定でございます。 ただ5月に開催されるブロンズリーグの結果如何によっては、 欠員補充の公募もありうるかと存じます』 初老の男は、メモをみるわけでもなく微笑んだまま答えた。 「わかったわ、また知らせて頂戴」 私は初老の男に背を向け、南側のカーテンを開こうと手を伸ばした。 『かしこまりました』 フォログラムの通信が切断されると、初老の男は姿を消した。 力任せにカーテンを右に開くと、まぶたを思わず閉じてしまうような眩い光が飛び込んできた。 私は手探りで窓の鍵を開き、テラスへと出た。 テラスの外は、視界に入りうる160度程度、すべてに高層ビルが聳え立ち、 それが遥か向こうの霞の中に消えていくまで連なっている。 その高層ビルとビルの間に広めにとられた6車線の道路には、 渋滞するわけでもなく数多くの車が等間隔に往来している。 私が生まれた2020年代後半までは、ガソリンで走っていた車も、 今やすべて電気にかわっていて、外の風景からは見た目ほどの喧騒さはない。 むしろトーキー映画を観ているような静けさが、 リカの腹ただしさ止まぬ鼓動を、余計に大袈裟に伝えているようであった。 胸のあたりまである高さの、ステンレス製の手すりにもたれかかると、 34階から見下ろす階下を歩くまばらな人の姿が、ゴマ粒よりも小さく見えた。 (きっと あんなちっぽけな人間にアタシも見えるんだわ ああ本当に頭にくるわね) |