駅景

まもなく3番線の電車が発車して
数分後にまた別の電車がこのホームにやってくる
繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返して
同じ(正確には違う)光景が上書きされる

まだ40には届かない母親が
まだ5つには届かない娘の手を取って
ホームに入ってくる電車を眺めている
地面はオレンジ色 母親もオレンジ色
娘はまだ何もわからない様子で
通過した電車に長く伸びた影の一部を奪われていった

せかい
こころのせかい
ぼくの こころのせかい
ぼくの

まもなく3番線の電車が発車する
ぼくはその電車に乗り込もうとする
けれど数分後にはまた別の電車が入ってくるから
べつに乗り込まなくてもいいんじゃないかと思ってしまう
ぼくの前では
まだ40には届かない母親が
まだ5つには届かない娘の手を取って
同じようにまた次の電車だけを待っている
(次の電車は永遠に続いていくけれど)
(次の電車がこのホームに入ってくることはない)

アナウンスが遠くに聞こえた
ハウリングして不快に聞こえた

きけんせ(ガー)ははいじょされま(ビィー)た
もういつ(ガー)もいえにかえっていい(ビィー)すよ

次の電車が前の駅を発車したらしい
同じ色をした同じ鉄でできた
アイデンティティ不足の次の電車が
前の駅を発車したらしい







ぼくのせかいはひろがっていきます。ひろがればひろがるほど、ことばはふくらんでいきます。