キヒヌヤラム

道端に生きる野草の影には
キヒヌヤラムがいて私の足首を狙っている
私の足首はキヒヌヤラムに狙われて
いるとわかっているから必死で逃げようとする
追いかけるキヒヌヤラムの形相は険しく
私の足は私から分離しそうになる
かならないかの境目で悲鳴をあげながら
やっぱりキヒヌヤラムの恐怖に怯えている

月の影がくっきりと私を道路に縛り付けて
私の足は千切れそうなくらいに伸びきって
街路樹の先のほうから聞こえてくる笑い声は
私の三半規管さえ狂わせてしまう

キヒヌヤラムの口なのか目なのかわからない
大きな(けれど吸い込まれそうな)場所が
私の心を奪い去りそうになれば
月夜であることさえ忘れて私は
私ではない別の私を呼び起こそうとしてしまう

足首はさっきから空間ごと捩じられたような鈍い痛みと
キヒヌヤラムの笑い声で腐敗しそうだ

キヒヌヤラムの夜
空に浮かぶ満月さえキヒヌヤラムの聖地とならんとて






ぼくのせかいはひろがっていきます。ひろがればひろがるほど、ことばはふくらんでいきます。