俳優ユースケ・サンタマリア氏を個人的趣味で鑑賞...いえもと(改名しました)

こちらでは、ユースケ氏の出演作品の中から、後世に残したいとまで気に入った作品&ここまでこのドラマを食い入るように観てるのって私だけだろうと思ったドラマを、筆者が勝手に必要以上に評価させて頂いています。ネタバレ有です。
ドラマのあらすじを知りたくない方にはお勧めできません。
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「愛と青春の宝塚〜恋よりも生命よりも〜」フジテレビ エリを静かに思い続けた清志 - 2005年10月28日(金)

「愛と青春の宝塚〜恋よりも生命よりも〜」フジテレビ 2002年正月スペシャル

第二次世界大戦前後の日本。歌劇の世界に青春を生きる「タカラジェンヌ」達。
彼女達それぞれが、自分の生きる場所を模索。
秘めた恋とか、短い命とか。戦争が翻弄する出会いと別れ。宝塚を通して、自分には何ができるか・何を守りたいのか、悩んでは一皮むけていく女達男達。

アネゴ肌で、無邪気で、自分がトップであり続けたい、負けず嫌いなリュータン。彼女が思いを寄せている、演出家の景山航。航に助けられて宝塚の世界に飛び込んだタッチーもまた、航を密かに慕いつつ、宝塚に対してはどこか、自分の本当の居場所だと思えないでいた。同期のベニ、エリ、トモ。
なぜか生き急ぐように激しく稽古に精進し、貪欲に役をつかむトモには死の影が迫る。短い命を舞台で燃焼させて逝く。
タッチーは満州で出会った海軍士官の速水と互いに惹かれていく。しかし速水は戦地に散ってしまう。彼との約束「生きて舞台に立つ」ことを全うし、やがてトップスターに。
リュータンは空襲で逃げ遅れたタッチーを助け、そのときに負った火傷で宝塚退団することになる。トップの座を失った彼女を待っていたのは航のプロポーズ。

タカラジェンヌ達はそれぞれ、何か大切なものを失ったり、その代わりに何か大切なものを手に入れたり、運命の中で、心を忘れずに懸命に生きていた。
人って、何もかも手に入れることは無理でも、何かひとつ、大事な宝物のために、ここまで真剣に生きられたら、幸せだろうな。

女も男もみんなそれぞれに輝いていて、可愛い人物達。どの役にも、キャストがすごくピッタリはまっていた。

そしてユースケ氏はここでは、バラエティで見せるような可笑しなハイテンションは抑えて、ちょっと気弱な、純朴な若者を演じている。

音楽学校時代からずっと見守ってきた男役スターのエリに、一途に恋心を寄せる貧乏な画家。それが清志。
芸術や女性に関しては、静かなこだわりを持っていそうだ。

そんな清志を初めは全然相手にしてなかったエリ。サルトルとボーヴォワールのような男女対等の理想の関係に憧れている。
けれど清志の絵のモデルを引き受け、自分の才能と魅力についてを清志に語らせるうちに、エリはだんだん心を開いていく。
「あたしのどこが好き?」何度も確かめるエリ。
「いつも同じこと平気で聞くところ」「ツンとした顔も綺麗なところ」・・・・・「負けず嫌いなところ」「縁談があっても見向きもしないところ」などなど、答える清志の、エリを見る目は、半ばあきれたようで、でも優しい。エリの命令口調も可愛いとさえ思っているように。彼にとっては、エリの舞台での魅力もさることながら、エリの人としての持ち味そのものがすべて好ましいようだ。
しかしエリはなかなか満足しない。宝塚でスターになって沢山の人々から賞賛を浴びたいし、お金だって名声だって欲しいし、それなのに
目の前の、清志というただの一人の男とのつつましい暮らしを幸せと思えるのか?エリの理想とは一見、程遠い男。

そのことを清志もわかりきっていて、でもなお、結婚しようと彼女に言ってしまう。
「あたしは自立する女よ。嫁にするなんて失礼よ!」「嫁にするなんて言ってないよ、結婚しようていったんだ。・・・宝塚じゃなくても女優はできるよ。サルマタとボンオドリみたいに対等に生きられるよ」
結婚はできない、とエリは答える。
「地位も名誉も金もないし、いつ召集令状が来るかもしれない男に、エリちゃんの人生は、賭けられないよな。わかってるのに、なんで言っちゃったのかな」
エリの気の強さ、プライドの高さ、彼女の個性をこよなく愛して尊重しているゆえに、
そんな彼女に自分がふさわしいのか?悩みつつも、清志は誠実に、エリだけを思っている。
この謙虚な、ひたすらな風情。目を伏せ気味に、抑えたマイルドな表情に、そんな清志の人柄がよく表れていて、
もう「ユースケ・サンタマリア」だということをすっかり忘れて観てしまった。

エリは宝塚スターの夢を捨てられない。それに何よりも、彼はもうすぐ兵隊にとられて死ぬかもしれない。そんな男をこれ以上好きになっていいものか?
「今度こそ姿を消して。逢うと辛いから。また絵描いて欲しくなっちゃうから!」清志の描いたエリの肖像をひったくるようにもらって、泣きながら走り去ったエリ。そんな彼女の後姿を、困ったように切なく見送る清志。

清志に召集令状が来て出征の日、駆けつけた駅で思わず叫ぶエリ「死んだら許さんけんね!」清志も「死にませんから!」
しかし、後日エリのもとに届いた知らせは、清志が船から落ちて、サメのいる海に沈んで死んだというものだった。

悲嘆にくれるエリ。でも清志はどうやら奇跡的に生きていた。エリはとうとう、清志の中にこそ本当の愛と幸せを見出す。舞台での賞賛とか、名声とか、それよりも、もっと彼が大事なんだと気づく。
片脚を失って、より一層エリの前に現れることができなくなっていた清志に、今度はエリのほうから飛び込んでいった。
ここでのエリ・米倉涼子も素敵だ。何かを超えて吹っ切って何かを選び取る時の人の姿って、心を打つ。
「あなたがいてくれたら、何も要らない。父も、母も、兄も、お金も、この国も」「・・・宝塚は?」「要らない。」「・・・あたしがあなたの脚になる。だからあなたは、あたしについて来なさい!」きっぱり言い切るエリ。
そんなエリの変わりように驚きを隠せない清志の表情も、どこかとぼけていてユーモラスでありながら、諦めが喜びに変わる幸せの極限に達している様子が、涙を誘う。
本当はエリはもっと前から清志のことを好きだったに違いないのに、そこにあまり気づいていなかった、そういう抜けてるところが、清志の持ち味だし、そういう味を出すのがユースケ氏は上手だ。
「エリちゃん」と呼んでいたのに、途中から「エリが必要だよ。」とさりげなく呼び捨てに変わっていた。子供のような泣き顔だったユースケ氏の表情が、このときの一瞬、男らしいしっかりした顔と口調になってから、またみるみる八の字眉に戻るあたり、いい演技だった。

エリは親から勘当されても清志と一緒になり、二人はその後ずっとおしどり夫婦で暮らしていくが、阪神淡路大震災で寄り添うように一緒に天に召されてしまうのだった。
(そのシーンの年寄りメイクもなかなか上品で、こんなふうに死ぬまでお互いを大事にして夫婦で一緒に逝くのもいいなって思う)

華々しいことは何もないけれど、静かに燃え続ける、小さいけれど確かな炎だったなあ、という印象。
ユースケ氏のこんな役もなかなか良かったですよ。



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