月に舞う桜

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2015年09月06日(日) Mr.Children Stadium Tour 2015 未完(2)

ミスチルライブの続きです。


「忘れ得ぬ人」から「タガタメ」までの3曲は、曲に込められた愛がどんどん大きくなっていく感じがした。
「蜘蛛の糸」からはステージに戻って、「REM」からは、再び攻撃的な曲調に。
「WALTZ」は、新アルバムの中でもかなり好きな曲だ。異彩を放っていると思う。暗いし、生きていることのかなしみとか「どうしようもなさ」みたいなのが漂っているんだけれど、強くて真っ直ぐなんだな。
新アルバムは、こういう甘くもないしやさしくもない曲が結構多いんだけど、不思議と、強い希望を絶対に失わずに見せてくれる。ハッピーな曲より、暗い曲の方が、光は強く感じられる。
ステージの上、一人で踊るようにぐるぐる回る桜井さん。その姿は、どこか狂気めいていて、気がふれたかのようでもあった。

「フェイク」で、客席6万9千人の「oh oh oh」を聴いたら、音楽が作り出す一体感の偉大さに鳥肌が立った。
「REM」「WALTZ」「フェイク」の流れは、たまらん!

そして、今回のセットリストで私にとってサプライズだったのが「ALIVE」だった。まさかこの曲をやるとは思っていなくて、そう来たか!と驚くとともに、個人的な記憶がよみがえった。
何年前だったか、私は一時期この曲にどっぷりはまって、繰り返し聴いていた。その頃の私は、この曲に頼らなければならないほど、生きることがしんどかったのだろうか。
いまは、その頃よりは少しだけ自分を客観視できるようになった(と思いたい)。それでも、当時のことがよみがえってほんのり痛みも感じながら、桜井さんと一緒に歌を口ずさんだ。
タイトルはALIVEだけど、曲に込められているのは、生への賛辞、ではない。生きなければならないことの困難さ、孤独。いま、ここに、希望や救いがないとしても、それでも私たちは生を欲し、生きてしまう。歩いていれば、いつかどこかに光が見えるだろう。そんな、切実な信念。

「タガタメ」や「ALIVE」のような曲を書ける桜井和寿という人間は、単なる音楽という枠組みを超えて、生きるということに本当に真摯に向き合っている表現者なのだなあと思う。私がミスチルを好きなのは、彼の、人生に対する誠実さや真っ直ぐさや深い眼差しに惹かれるところが大きい。

「進化論」では、5月の横浜アリーナでも観た映像がスクリーンに映し出された。
一人の(一匹の、と言うべきだろうか)生き物が、両手で一輪の花を大事そうに持って歩いている。その生き物の体は、草花や実がたくさん合わさってできており、それでいて、ドリルのような形の口や、蓋が開く頭部などは機械仕掛けのようでもあり、不思議な容貌をしている。
その生き物は、頭のてっぺんから自然や文明を取り込みながら、雨の日も風の日も雪の日も、一輪の花をどこかへ運ぶために歩き続ける。そして、やがて力尽きて膝を折り、目を閉じてしまう。すると、向かい側から、似た容姿だけれども明らかに別人と判る生き物がやって来て、一輪の花をそっと手に取り、来た道を引き返していく。バトンは受け継がれた、という感じだ。
この映像が語る物語は、近年提唱されているという第3の進化論のエッセンスを見事に表しているように思う。第3の進化論は、「親世代で叶わなかった努力や願いが、子供の世代に受け継がれていく」というもので、桜井さんが気に入って曲の題材にしている。
生きている間に、誠実に真摯に何かをなそうと歩みを進めれば、命が尽きても、誰かがきっとそれを受け取って、引き継いでくれるだろう。そして、いつの日か、きっと大輪の花を咲かせる。
5月の横浜アリーナではあまりぴんと来なかったけれど、今回は映像と曲が頭の中でしっかり繋がった。映像が曲の添え物なのではなく、むしろ映像が主役で、曲がBGMとして一歩下がっているかのようにも感じた。それくらい、今回は映像に込められた温かさや願いに引き込まれた。


「終わりなき旅」は大学受験のときによく聴いていた曲で、今でも、聴くたびに「頑張ろう! 私はまだまだ大丈夫!」って思える。

ミスチルのライブは基本的にペンライトの類は使用禁止なのだけど、アンコール1曲目の「I wanna be there」では、客席がスマホのバックライトを点灯させていて、キラキラときれいだった。今回のツアーのお約束らしい。
「蘇生」は、「終わりなき旅」よりもさらにポジティブな気持ちで「頑張ろう!」と思える曲。「終わりなき旅」が、いまの自分を抱えて前に進もうとする曲なら、「蘇生」は、日々脱皮して新たな自分になって昨日を超えていくようなイメージだ。

「Tomorrow never knows」と「innocent world」は定番中の定番だけど、何度聴いても飽きない。若い頃と言うべきか子供の頃と言うべきか微妙なところだけど、とにかくこの曲が流行っていた当時を思い出して懐かしくなるとともに、新鮮な気持ちもあって嬉しくなる。

レコーディングで苦労して、何度も何度も録り直していた「Starting Over」で、ライブは幕を閉じた。
ライブの冒頭で出た鳥の羽根の映像が、終盤で再び流れた。冒頭と違っていたのは、ナレーションの締めくくり方だ。「この1枚の羽根は、どうして落ちたのか。銃に撃たれた鳥のものかもしれない。それとも、ただ羽根が抜け落ちただけで、鳥はいまも生きているかもしれない」に続けて、「どちらだと思うかは、あなた次第だ」というようなことを言っていた。
「あなた次第」という言葉は、桜井さんが愛について語った際に使った「想像力」とリンクしているように思えた。

今回のライブは、セットリストが素晴らしかったのはもちろんのこと、終始一貫したテーマやメッセージが込められていて、それが明確に伝わる構成だったと思う。
暗い道の途中でも、いますぐには叶わなくても、いつか想いが実を結び、願いが伝わり、希望が見える日がやって来る。私たちは未完だ。未完だからこそ、希望がある。
それが、私が勝手に受け取ったメッセージ。


元気もらえたね、明日から頑張れるね。仕事大変だけど、頑張ろう。
帰り道、そんなふうに同僚と話した。二人とも、大満足の笑みだった。

あー、楽しい、良いライブだった。


(完)


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