月に舞う桜

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2014年09月16日(火) ジェントル

最近出会った素敵な人のこと。

その1.
これは私自身の体験談。
通勤に使っている路線はホームと電車の間に段差や隙間がほとんどないため、駅員さんにスロープを渡してもらわなくても、一人で乗降できる。
いつかの仕事帰りのこと、その日は会社の最寄駅で電車に乗る人が多くて、電車のドア付近が一時的に混みあった。私は、周囲の人にぶつからないように少し待ってから、一番最後に乗ろうとしていた。
そうしたら、電車内のドア寄りに立っていたサラリーマンが、私が乗り込むまで電車とホームを跨ぐように立って、ドアが閉まらないようにしてくれたのだ。
時間にして、5秒弱。でも、そのたった5秒弱の出来事は、私の胸の内にあたたかい風を届けてくれた。
そのサラリーマンが電車とホームを跨がなくても、たぶんドアは閉まらず、私は安全に乗り込むことができただろう。でも、そんなことは問題じゃないんだ。その人の、小さいけれど大きな気遣いに、私は感謝した。
片方の足を電車の外へ出したその振る舞いは、私の車椅子が通るのに邪魔にならないよう立ち位置も配慮されていて、でも、さりげなくて、全然これ見よがしじゃない。
一瞬で状況を判断してごく自然にそんな気遣いができる人は、本当に素敵だ。気遣いだけでも嬉しいのに、さりげないところが素晴らしい。


その2.
これは、電動車椅子を使っている同僚の体験談。
同僚の自宅から最寄り駅の途中には、押しボタン式の信号機があるらしい。ただ、同僚は自力でそのボタンを押すことができないので、周囲に人がいないときは、車が来ないことを確認して赤信号で渡らざるを得ないそうだ。
あるとき、やはり周囲に誰もいなくて、道を渡るタイミングを見計らっているとき、後ろからサラリーマン風の中年男性が歩いてきて、同僚のほうをちらりとも見ずに信号機のボタンを押したそうだ。そして、その男性は、横断歩道を渡らず、何事もなかったかのようにスタスタ歩いて行ったという。
同僚が事態を把握したときには、男性は結構先まで行ってしまっており、大きな声を出すことができない同僚は、男性の背中に向かって頭を下げたそうだ。

私は、この話を聞いただけで、その男性に惚れてしまった。
なんて感動的な、なんて胸キュンな話だろう!
同僚の方をいっさい見ずに、さっとボタンを押して、何食わぬ顔で自分はそのまま歩いて行く……なんてジェントルなのかしら!!
どうしたら、そんな素敵な人間になれるのだろう。ちょっとでもいいから、見習えたらなあ。


二人の素敵な紳士に、心から敬意を表します。


桜井弓月 |TwitterFacebook


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