月に舞う桜

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2010年08月17日(火) 真夏の夜<2>

(つづき)


Born To Be Freeが終わり、YOSHIKIは一度ドラムを激しく叩いて存在感を見せつけてから、退場した。

ToshI「オン・ギター、PATA!」

ToshIはなぜかPATAだけを紹介したけれど、ステージにはPATA、HEATH、SUGIZOが残った。
昨日はギタリスト2人のバトルだったけど、今日はHEATHも加え3人でのギター&ベースバトル。
PATA、SUGIZO、HEATHの順で、交互に思い思いにフレーズを奏でる。自分のプレイが終わって次の人を指差すときの仕草が、3人とも妙に決まっている。
PATAは相変わらず渋い。SUGIZOの音はめっちゃセクシーでエクスタシーを感じる。衣装もシースルーでセクシーだし。
そして、HEATHはとにかくカッコいい。あぁ、惚れる。私に二の腕を見せるなんて、反則だわ。
ToshIくんのことは愛してるけど、HEATHは「キャー、カッコいい!」ってミーハー的感覚で、アイシテル。
PATAが下手花道、SUGIZOが上手花道にいたので、HEATHはステージのど真ん中だった。HEATHがセンターにいるって、新鮮な眺めだ。
ソロプレイを3周くらいしたところで、PATAとSUGIZOがLove Replicaを弾いた。1日目よりテンポが速かった。
最後は3人がセンターに集まって、締め。

またステージが暗転してしばらく待っていると、アリーナ席後方のサブステージ(1日目にToshIとYOSHIKIがForever Loveをやった場所)がせり上がってきた。
現れたのは、YOSHIKIとピアノ……ではなく、なんとドラム!
今回のライブではドラムソロはないだろうと勝手に思い込んでいたから、かなり驚いた。と同時に、ドラムソロなんてやって大丈夫なの!? と、YOSHIKIの体が心配になる。
YOSHIKIは神のごとく椅子の上に立ち、ゆっくり会場を見渡した。
そして、渾身のドラムプレイ。
だんだんトランス状態に入りながら、ときおり傍らのキーボードでForever Loveを弾いた。切ないバラードであるはずのForever Loveが、小刻みなバスドラと一緒だと狂気のメロディに聴こえる。
後半、途切れそうになる意識を繋ぎ止めようとするかのように、YOSHIKIは「ウァーーーー!!!」と雄たけびを上げた。マイクを通さない、生の叫びが私の席まで届いた。あれは、「人間」という枠を超えた、一個の生命体の魂が発した叫びだった。
「もういいよ。そこら辺でやめときなよ。本当に体、壊れちゃうよ?」と思いながら、YOSHIKIを見つめた。
何度か、YOSHIKIがドラムスティックを振り下ろすと同時に北側スタンドで火花が上がり、息の詰まるドラムソロが終了した。
あとでネットニュースで確認したら、12分のソロだったらしい。

(ところで、前日も不思議に思ったけど、YOSHIKI(1日目はToshIも)はメインステージからサブステージまではどうやって移動したんだ? 暗闇にまぎれて、普通にアリーナを歩いて行ったの? 待ち時間にあの付近でざわめきや歓声が起きている様子はなかったけど)

崩れるようにドラムセットから離れ、よろよろとサブステージを下りるYOSHIKI。でも、その表情にはやりきった充足感が溢れていた。
そして赤いシャツをはおり、サブステージのすぐ下に置かれたピアノで、笑顔をたたえながらI.V.を弾く。

ToshI「お前たちの声聴かせてくれー!」

メインステージから、ToshIの声が聴こえた。
しばらく、いつものサビの合唱を繰り返していると、YOSHIKIがピアノをやめてアリーナの通路を歩き出した。ときどき、両腕でXを作りながら。
それから花道に上がり、ステージまで駆けて行って、ToshIのマイクをもらう。

YOSHIKI「We are!」

YOSHIKIは何度も「We are!」と呼びかけ、合間に「聞こえねーよ! 聞こえねーって言ってんだろ!!」と叫んで、私たちにより大きなXコールを求めた。
花道にあおむけになって「We are!」と叫ぶYOSHIKIは、ほんの子供みたいに見えた。
いつも感じることだけど、例えば記者会見なんかのときのYOSHIKIは立派な大人のプロデューサー(アーティストというよりは、プロデューサー)の顔をしているけれど、ライブになると、その表情が少年に見えるのだ。
自分の進みたい道をただひたすら突き進んで、体が壊れるのも厭わず、目の前のドラムやピアノに全身全霊を傾ける。それでも自分のエネルギーが放出しきれなければ、寝転がって叫び続ける。そんなの、普通は子供にしかできないことだ。
だけど、Xの中で一番大人なのは、実はYOSHIKIだとも思う。一人でいろいろなものを背負っているのも、背負うことができるのも、YOSHIKIだ。
一般的に、男の人はいくつになっても少年の心を残していると言われる。でも、私がYOSHIKIに対して感じるのは、それとは少し意味合いが違うんだ。大人と子供がうまく同居している、のではなくて、大人と子供がせめぎ合いながら、一歩間違えばどちらか一方が他方を侵食してしまうようなギリギリのところでバランスを保っている、そんな危うさを感じてしまう。

「We are!」に満足したYOSHIKIは、「HEATHが歌ってないぜー」「SUGIZOが歌ってないぜー」と言い始めた。
で、マイクを取られたToshIくんはその間に何をしているかと言うと、ドラムでリズムを取っているのだ! おお、ヴォーカリストとドラマー、交代か!?
最初はシンバルをシャラシャラ言わせるだけだったけれど、SUGIZOがサビを口ずさむのに合わせて、ドラムを叩きだした。
YOSHIKIがピアノで参加すると、ToshIくん、なぜかドラムを叩くテンポをどんどん速める。ドラムに合わせてピアノを速くするYOSHIKI。それに懸命について行くHEATHとSUGIZO。PATAは……何やってたっけ?
で、倍速くらいになったところで、満足げにドラムとシンバルをカッコよく叩ききって終えたToshIくん。そして、YOSHIKIのまねをして椅子に立ち上がった。
が、YOSHIKIが椅子に立つと神々しく見えるけど、ToshIくんが立つとかわいいんだよね! だって、足元がふらついてるんだもの!
その様子を見て、YOSHIKIは苦笑。

YOSHIKI「相変わらずよく分かんないけど……We are!」

えぇ、相変わらず、わけ分かりませんな。でも、いいの。だってWe are X だからね。

マイクをToshIに返して、再びサビの合唱。
そして、本格的にI.V.
2日目の中盤を越えたけど、ToshIの声はまだまだ衰えない。

I.V.で本編は終わり、アンコールへ。今日は本編が長かったな。
このとき7時半か8時前だったと思うけど、暑さは少しもおさまっていなかった。
アンコール待ちのとき、ポカリで水分補給しようとペットボトルを出したら、蓋を開けてまさにこれから喉を潤そうってときに私の何列か前の女の人が「We are!」と叫び始めた。だから、ペットボトルを持ち上げた手を止めて、呼びかけに応える。
その女性が「We are!」をやめても、そこらじゅうで「We are!」が始まるから休めない。メンバーが休憩していても、客席の私たちは忙しいのです。こんなふうに一体感を味わえるって、Xのライブ以外にないよ。なんて楽しいんだ!

さて、アンコール。
まず、着物をシャツのように羽織ったYOSHIKIが下手から走り出てきた。着物の帯代わりにしたいのか、ベルトのようなものを首から下げている。そして、そのベルトに無理やり腕を入れて銅まで下ろしたいようなのだけど……いや、あんた、そりゃあいくらなんでも通らないって!
どう頑張ってもベルトが下りないことが分かり、諦めてベルトをポイするYOSHIKI。着物の前をはだけたまま、ピアノの前に座る。

ToshI「呉服屋の息子だぜー」

ToshIくん、それは紹介じゃなくて、からかいですか?

YOSHIKIが、DAHLIAのフレーズを弾いた。
そして、そのままの流れで、UNFINISHEDへ。
UNFINISHEDは、ずっとずっと聴きたくて、でも生で聴くことはないかもしれないと思っていた曲の一つ。
ピアノだけでもかなり嬉しいのに、なんとToshIがYOSHIKIの気まぐれに乗っかって歌い始めた。これには会場からどよめきと歓声が上がった。
美しくなめらかなYOSHIKIのピアノと、高音で切なく歌い上げるToshIの声。なんて贅沢な瞬間なんだろう。CDで聴くより1000倍良い!
2日間のライブで、このUNFINISHEDが一番感激した。あれは正式なセットリストには入っていなかったはず。YOSHIKIとToshIの即興的な感じが、余計に嬉しい。

二人は1番の途中でやめて、ToshIが「オンベース、TAIJI!」と紹介した。
ああーん。せっかくだからUNFINISHEDをフルでやってくれれば良いのにぃ。
TAIJIが登場し、続いてToshIがHEATHを筆頭にメンバー紹介した。

ToshI「オンギターPATA! SUGIZO! YOSHIKI! ToshI! そして、HIDE!」

この日は、HIDEを最後に紹介した。1日目と同じように、天を指しながら。

XJAPAN with TAIJIで「X」。
ToshIは「7人のXでいくぜー」と言ったけど、「TAIJIはXじゃないよ」って私の想いは消えていなかった。
でも、曲の途中で、私は自然にTAIJIの名前を叫んでいた。
ステージ上のベーシスト二人。私には、明らかにHEATHの方が輝いて見えた。それをはっきり感じたから、心に余裕ができたのかな、中学2年の「紅」を聴いたときの衝撃を思い出した。あのとき私が聴いていたのは、HEATHじゃなくてTAIJIのベース音だった。だから、TAIJIはまぎれもなく、私をXに引きずり込んだうちの一人だ。
いま、私がTAIJIの名前を叫ぶのは、過去への感謝の気持ちからだと思う。あのとき私を虜にし、こんなに素晴らしい人生に導いてくれて、本当にありがとう。

ステージの中央でHEATHとTAIJIが向き合ってベースをかき鳴らしていた。初期のXを形作ってきたベーシストと、いま世界に羽ばたこうとしているXJAPANのベーシスト。
二人のすぐ後ろで、ToshIが歌っている。

今日もHIDEの「飛べ飛べ」はあった。でも、前日はHIDEが何人もスクリーンに映し出されたのに、今日は一人だけだった。私、「白い夜」のHIDEが好きなんだけどな。

「X」が終わると、一度メンバーが退場して暗転。
再び照明がつくと、YOSHIKIがToshIをおぶって出てきた。
YOSHIKIは何度か「I love you!」と叫んでから、ピアノの前に座って語り始める。

YOSHIKI「先週みんなでシカゴに行って、ロラパルーザに出させてもらって、初めてアメリカで演奏することができました。もちろん、そこにHIDEも一緒にいたし……本当にここまで来れると思ってなかったけど……ひとりひとりに支えられて……本当に感謝しています。みんなひとりひとりが風みたいになってくれるから、自分たちが翼を広げられるんだと思ってます。これからも……よろしくお願いします」

声が小さいのでところどころ聞き取れなかったけれど、だいたいこんな感じのことを言っていた。
前日、ToshIが言ってたよね。「お前たちは世界一のファンだ」って。
自惚れてもいいかな。ToshIの言う通り、私たちは世界一のファンだと思うよ。だって、いつもこんなに長い間待って、何度も何度もハラハラさせられて、それでも懲りずにこうしてついて行くんだもの。
でもね、世界一のファンがXを支えてるんじゃない。世界一のバンドに支えられているから、私たちは世界一のファンでいられるんです。

最後の曲、ENDLESS RAIN。
ToshIもYOSHIKIも、嬉しそうだった。ENDLESS RAINは、ときどき心が痛くなる。でも、やっぱり笑顔が良いよ。

ENDLESS RAINを終えると、YOSHIKIが床にごろんと寝転がった。ToshIが上からペットボトルの水を掛けて、暑さにへばったYOSHIKIを癒やす。
水を掛ける。楽しそうに何本も何本も水を掛け続け……YOSHIKI、とうとう「もうやめて」と言うように腕で顔を覆った。
そして、反撃開始とばかりに、ToshIを追いかけながら水を掛けた。

それから、思い思いに歩いて歓声に答えるメンバー。が、PATAはステージ上の階段に腰掛けたまま、なかなか動こうとしない。ほら、もう最後だよ! 頑張って動こうよ、石塚先生!
YOSHIKIは、アリーナに下りて走り回る。本当に心の底から楽しそうな、満面の笑みで。
YOSHIKIの笑顔を見ると、いろんなモヤモヤが吹っ飛んで「もういい。とことん好きにやってちょうだい。何があっても私は付いて行くから」って気持ちになってしまう。
今回だって、すべてに納得してるわけじゃない。思うところは、たくさんある。だけど、ライブの最後にこんなYOSHIKIの笑顔を見せられたら、そんなことどうでもよくなってしまうんだ。
だって、3年前まで、こんなひとときはあり得ないと思っていたんだもの。ここにこうしてXのメンバーと時間を共有していること自体が、大きなサプライズ。言ってみれば、どでかいおまけみたいなもの。
だから、もう何をやってもいいよ。最後の最後に後悔しないように、信じるままに突き進んで。私が何があっても見捨てないから。

(しかし、それにしてもDMMはYOSHIKIしか映さないなー。花道を歩く他のメンバーも少しは映してよ!)

TAIJIも出て来て、ステージ中央に6人が集合。
YOSHIKIが、青い薔薇を上手側のモニターに置いた。言葉じゃなく、静かな行動で愛情を示す。

6人で万歳。
今日も最後に花火が上がった。

今回のライブ、ToshIのパフォーマンスが非常に素晴らしかった。1日目の最初から2日目の最後の最後まで、声の調子が本当に安定していて全く衰えなかったもの。ToshIに限って言えば、復活後のライブでは一番のコンディションだったと思う。

アメリカへ、そして世界へ、行ってらっしゃい。
また会える日まで、私は日本で頑張っていくよ。


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© 2005 Sakurai Yuzuki