月に舞う桜

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2010年02月21日(日) 忘れてはいけないこと

ToshIのアルバムが届いた。
2ヶ月も声が出なかったとは思えないくらいの、歌声だ。
特に1曲目の「エアポート」では、伸びやかな高音から急に低音へ移行する箇所があって、前より音域が広がったんじゃ?と思う。

20代前半、私は生き続けることに絶望していた時期があった。私を愛してくれる人たちはいたし、それを分かってもいたけれど、自分が無理して頑張ってまで生きなきゃならない理由を見出せなかった。頑張らなければ世の中から弾き出されるけれど、この世の中には、無理をしてまで合わせる価値がないと思った。
どうしても許せないことや、捨てられない憎しみがあった。だからうまく呼吸ができなくなった。
友人や精神科の先生やカウンセリングの臨床心理士さん、そして何より、時間の流れが私を支えてくれた。もちろんXの曲もToshIの声も傍にあった。
いま、私はあの頃の気持ちを忘れそうになっている。でも、忘れてはいけない、と思う。
忘れることは、一つの大きな能力だ。息苦しさや絶望感は思い出したくないものだし、忘れることで前に進めることだってある。だから、悪いことではないのだろう。
だけれど、忘れてしまったら、あの頃の自分を「なかったこと」にして切り捨てることになる。いまの私は、あの頃の絶望の上に立っているのに。

再出発は、過去を切り捨てることじゃない。

私は、ToshIのことも忘れずにいたいと思う。この12年間のことも、その前の10年間のことも。ToshIが傷ついたこと、傷つけられたこと、誰かを傷つけてしまったかもしれないことも、それでも多くの人に希望を与えてきたことも。
だから、TOSHI with T-EARTHのアルバムは捨てないでおくことに決めた。自分の意志だけでは記憶は時間とともに薄らいでいくけれど、物があれば、たぶん記憶は繋ぎ止められる。
それに、物は心の証だ。忘れないでいると決めたことの証。

ToshIも、忘れずにいるといいな。


桜井弓月 |TwitterFacebook


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