月に舞う桜
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2008年09月07日(日) |
EARTH SPIRIT(5) |
TOSHI with T-EARTH ZEPP TOUR 2008 SUMMER EARTH SPIRIT ZEPP東京公演1日目(9月3日) の続き。
ライブのあとは、いよいよTOSHIの握手会だ。 会場の外に出ると、すでに列ができていた。改めて会場に入り直す感じだ。同僚と別れて、列に並ぶ。タオルで掌の汗を拭き、順番を待った。 列は一度進み始めると意外とスムーズで、あっさり入り口まで来てしまった。 係員に握手会の参加券(握り締めていたので、ぐしゃぐしゃ)を渡し、ドアのちょっとした段差とも言えない段差を乗り越えようとしていると、すぐ前に並んでいたグレーのスーツ姿の男性が「大丈夫ですか?」と引っ張ってくれた。 お礼を言いつつ中に入ると……えーと、幻覚じゃないですよね? 入って左側、わずか数歩先に座っているのはTOSHIくんですよね? 会議室とかによく置いてある茶色の長机があって、その向こうに、あまりに普通な佇まいで座ってるんですが……。 通路を少し歩かされると予想していた私は、面食らった。思わず心の中で、「何でそんな、入ってすぐのところにいるんだよっ!!」と突っ込んだ。 こ、心の準備ができてないっつーの!
さっき車椅子を引っ張ってくれた男性が握手している間に、深呼吸しよう。 そう思ったのに、その男性が振り向いて「先にどうぞ」と言うではないか。
桜井「ええっ、いいです、いいです!」
桜井さん、ちょっとパニックに陥ってしまい、手を振りながらオーバーに固辞しております。 が、男性は落ち着いた表情で「どうぞどうぞ」と。TOSHIを目の前にしてその余裕、慣れてらっしゃるんだろうか……羨ましい。 「TOSHIくんがこっち見てるし、待たせちゃ悪いし……」ということで、恐縮しながら先に行かせて頂く。
と、と、としだよ、めのまえに! 白いシャツ着て、サングラス掛けて、TOSHIくんがいるよ、どうしよぉ。
TOSHI「今日は来てくれて、ありがとね」
ぎゃーーーーーっ! TOSHIくんに話しかけられたぁ! ライブとは違って、抑えた声。やさしく、ささやくような。まさに「この私に語りかけてくれてる」ってトーンだ。しかも、あの笑顔。
TOSHIくんが右手を差し出しているので、私もおずおずと右手を。
桜井「今日はありがとうございました」
頭を下げながら、言葉がちゃんと出てきてくれた。偉いぞ、私の口。 人と話すときには相手の目を見ましょう、って小学校のとき習ったかどうかは忘れたけれど、それが大人の常識ってもんでしょう。 でも、ごめんなさい。目なんて見れません。だってサングラスの色が薄くて、目が透けてるんだもの。 顔を直視できないので、ちょっと斜めに見てしまった。 で、視線をTOSHIくんの手に移す。私の手を握るその手は、もうすぐ43歳になる男の人にしてはきれいで、思っていたより白かった。そして、あったかい。
桜井「あの、これを……」
バッグからごそごそと手紙を取り出して、渡す。 まるで、先輩にコクる中学生のようだ。
TOSHI「ああ、手紙ね」 桜井「いつも、ありがとうございます」
この一言じゃ、意味が分からなかったかもしれない。14年分の感謝を伝えたかったけれど、そう言うのが精一杯だった。 あとは手紙を読んでくれ。
時間にして、たったの10秒(もないかもしれない)。でも、今までの人生の中で最も濃密で、衝撃的な10秒だ。 会場の外に出るとさっきの男性がいたので、改めてお礼を言った。 駅へ行くには一度2階へ上がらなくてはならないのだけれど、ちょうど目の前が階段で、エレベーターは先の方の見えないところにあった。男性は「上がれますか?」と、私の帰り道まで心配して下さった。なんて、やさしい人だ。向こうにエレベーターがあるので大丈夫です、と頭を下げて、ZEPP東京を後にした。
エレベーターで上がって、トヨタのショールームを突っ切って、またエレベーターに乗って下りる。その間は、ついさっきの10秒の実感がちっとも湧かなかった。 感激は、衛星中継の音声みたいに、ちょっと遅れてやって来る。 駅前の広場を急いでいるとき、突然涙が溢れそうになった。
直視できなかったTOSHIくんの笑顔と、握手したときの感触と、「今日は来てくれてありがとね」と言ってくれた声と、それから、この14年間を思い出した。
ZEPP東京から結構離れてしまったこんな場所でいまさら泣いたら、事情を知らない周りの人たちに、悲しくて泣いていると思われてしまう。 だから、踏ん張った。帰りの電車の中でも。
ライブ中、TOSHIくんが私に向かって(と言い張らせておいて下さい)水を撒いたとき、頭上を飛んで行く、あるいは私に降りかかる水滴が、不思議なくらいスローモーションで見えた。それは、あまりに美しい光景だった。 嬉しそうな顔で水を撒くTOSHIくんと、飛び散る水滴と、それを見上げる私。あの瞬間を、一枚の絵に納めて永久保存できたらいいのに。 それから、この日記を書いていて思い出したけど、ステージ中央のモニターの隅にはカンペが張ってあった。セットリストだろうか。ライブ後半で、TOSHIくんがそのカンペを見ていた。YOSHIKIがセットリストを忘れるのは、本人の口から聞いたことがある。それで、TOSHIやHIDEに「次、何だっけ?」と確認するんだ、って。だから、TOSHIくんがカンペを見る姿は何だか新鮮だった。
多くの人のやさしさに触れて、そのやさしさにきちんと感謝できた1日だった。 ライブ後に風船をくれた方、握手の順番を譲ってくれたり何かと心配してくれた方、それからライブには関係ないかもしれないけれど、駅で電車を待っているとき「乗るとき、大丈夫ですか?」と声を掛けてくれた方もいた。
ありがとう。 私を支えてくれるたくさんの人。そして、愛するヴォーカリストへ。 無限の愛と感謝をこめて。
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