月に舞う桜
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運命というものを、私はあまり信じない。 でも、「このタイミングで、出会うべくして出会ったんだな」と思うことはよくある。少しでもタイミングがずれていたら、今とは全く違う結果になっていただろうと思うことが。 友人、同僚、過去の恋人、恩師、私を取り巻く様々な人たち、職場環境、身の回りのもの……etc. 「いつ、どんなふうに出会ったとしても、今と同じ関係を築くことになったはず」とは思えない。 小学校からの友人も大学時代の友人も、それぞれにその頃出会ったからこそ友達になったのだ。出会う時期が違っていたら、今のような気の置けない関係になっていたかどうか分からない。
私が使っている電動車椅子は、他のものに比べてかなりコンパクトで小回りが利く。このタイプは、私が大学に入る年の1月か2月に当時の厚生省の認可が下りた。私は大学入学を機に電動車椅子を使い始めたから、認可からわずか2,3ヵ月後のことだ。 もし、私が1年早く生まれているか、認可が1年遅ければ、私は別の電動車椅子を選ばなければならなかった。車椅子の大きさや性能の違いは、私の大学生活に少なからず影響を与えただろう。
それから、今の職場。 私が勤めているコールセンターは、去年の2月に立ち上げられた。新聞の「障害者向け求人特集」にオペレーターの求人が掲載されたのは、私がやっと2度目の就職活動をする気になった直後だった。 家から徒歩で通うことができ、物理的にも車椅子で働きやすい職場環境。 もし、センターの立ち上げが1年遅ければ、私は電車通勤しなければならない別の職場を見つけて、就職していたかもしれない。それで、通勤に疲れて、またも長続きしなかったかもしれない。もし、求人掲載が少しでも早ければ、私の方の準備ができていなくて目に留まらなかっただろう。
私が出会い、よい関係を築くことのできた人やもの、環境。それらは何とも絶妙なタイミングで私の前に現れ、そういうとき、「私は本当に恵まれているなぁ」と思う。 私がそのタイミングを「運命」と呼ばないのは、「最初から決まっていたこと」と思いたくないからだ。 私や、私を支えてくれる人たちのこれまでの道のり、あらゆる時点での選択が、良き出会いを呼び寄せたのだ。 運命に似て、でも運命よりももっと能動的に掴み取った出会い。
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