月に舞う桜
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面接試験も無事に終了。 待機室では手の平に汗が滲むほどだったのに、いざ試験本番となったら妙に気持ちが落ち着いて、「別にどうってことないよ」という心持ちになった。 私、実は案外と肝が据わっているかも知れん。 結果が「無事」かどうかは分からないが…。 ま、とりあえず。
帰りの電車内で、女子中学生の集団に囲まれた。 あの年頃のエネルギーというのはすごい。 なぜ、やる気なさげなダルダル感と無駄に高いテンションを同時に発揮できるんだ! ただでさえエネルギーがあるのに、その上、周りの人間のエネルギーまで吸い取ろうというのだから恐ろしい。 いや、彼女たちに「吸い取ってやろう」という意識はないわけで、こちらが勝手に吸い取られているだけなのだけど。 私と同年代の男性が一人で目の前に立っていて、やはり彼女たちに(たぶん気分的には)押しやられていたので、内心「お互い大変ですね」と思って親近感を抱いていたのだが、彼が私より先に降りてしまったため、私はいよいよ孤軍奮闘する羽目に。 この途方もないエネルギーに負けてたまるか! 話に聞き耳立てて楽しんでやる! と思ってリスニングを開始した。 (ちなみに、聞き耳を立てなくても話の内容はがんがん入ってくるのだが) どうやら彼女たちは盲導犬関係の映画を観ていて、その感想をグループで英作文にまとめなければならないようだった。 「感動しました」 「感動って、何て言うの?」 「わかんない。習ってないよ、たぶん」 「じゃあ、幸せな話でした、でいいよ」 「幸せな話だったっけ?」 「いいよ、いいよ、happy storyで」 ええっ!? いいのか!? 作文のためなら映画の内容も捻じ曲げてしまう、恐るべし、女子中学生! 「犬を必要としている人たちがいます……Some people need the dog?」 「need for the dogじゃない?」 「forだっけ?」 「わかんない。違うかも。前置詞系って、あんま、得意じゃないんだよね」 前置詞「系」って何ですか! という突っ込みは置いておいて、とりあえず、そこにforは要らないんではないかと…。 「目が見えない人がいる、だよね。目が見えないって……」 「not see?」 ……助動詞なしですか。 「目が、だから……」 「eyes not see?」 えーと、いいでしょうか。 blindという単語がさらっと出てくることを中学生に要求するのは酷かもしれないし、「目の見えない人たちがいて、彼らは盲導犬を必要としている」というような趣旨の表現自体、確かに難しいのかもしれない。 だから、英語についてはこれから地道に勉強してもらうとして。 問題は、英語がよく分からなくなったときに苦肉の策としてどんな表現方法を思いつくか、ですよ。 「eyes not see」という言葉が浮かぶのは、英語力がどうのというよりも国語力の問題だとおねえさんは思うのですが、どうなんでしょうかね。 ま、いいや。続き、続き。 「彼らを助けたいです……help to them…their?」 「their……themじゃない?」 おいおい、theirとthemもあやふやなんかい! しかも、help toって…。 「I want to help to them.でいいか」 「いいよ。toが二つあるけど」 いや、一つとか二つとか、数の問題ではないような…。 もう本当に、「help meって言うじゃん!」と教えてあげたくてしょうがなかった。 喉元まで出かかっている余計なお世話をぐっと飲み込むのに苦労しましたよ。 彼女たちは「できた、できた♪」と言って喜んでいたけれど、あの作文でいいんだろうか…。 ま、いいんだよ。 help themだろうがhelp to themだろうが、彼女たちはたくましく生きていくんだから。 「目が見えない」という表現の構造は理解してほしいと思うけど。 何はともあれ、若いって素晴らしい! あの、あらゆるものをなぎ倒して行きそうな可能性の塊、なんと輝かしいことか。
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