月に舞う桜
前日|目次|翌日
最近メイクにかける時間が長い。 と言っても、たいした顔が出来上がるわけでもなく、そもそも時間の長さと丹念さが比例しているわけでもない。 メイクをしている最中、何となくマッタリしてしまうのだ。 あー、これぞ女の時間だわぁ〜などと思いながら。
そんなふうにして秋色メイクを施して、秋晴れの空の下のお出掛け。 家を出たところで、道の真ん中で蛾が日向ぼっこをしていた。 羽が保護色だったこともあって、私が彼or彼女の存在に気づいたのは車椅子の前輪で轢いてしまう一歩手前だった。 私が気づくと同時に彼or彼女もやっと身の危険を察知したらしく、慌てふためいた様子で飛び立った。 そっちも轢かれそうになってびっくりしただろうけれど、こちらも急に目の前で飛び上がられてびっくりした。 だからおあいこね、と思った。
外出先で用事を済ませたあと、久しぶりにみなとみらいに行った。 広くて開放的で、好き勝手に歩けるところに余裕があって、いつ行っても好きな場所だ。 必要以上に構われたり気遣いをされたりする野暮ったさがないところが良い。放っておいてもらえる気楽さ。 それが叶うのは、ごく当たり前のように一人ですいすい動ける広さと造りになっているからだ。 精神が物を作り、物が精神を左右する。 唯一難点なのは、海の横なので風が強いことだ。 ただでさえ車椅子だとスカートがヒラヒラして危ういのに、みなとみらいを歩くのは無謀というものだ。 でも、今日は先週買ったスカートを穿きたかったのだから仕方ない。
ランチに入ったレストランでは、二人掛けのテーブルが埋まっていたので、4人掛けのテーブルに通された。 一人で広いスペースを占領しちゃって何だか申し訳ないなぁ、でも私のせいじゃないし、ちょっと嬉しいし。 そう思いながら何気なく隣のテーブルに目をやると、男性がやはり一人で座っていた。 お互い広いテーブルで一人寂しくランチなのね、と勝手に親近感を抱いてみる。 これがシックなバーとかで、しかも美男美女であれば、「せっかくですから一緒に飲みませんか」とか言って席を移動したりして、新たな物語が始まったりもするのだけれど。 あいにく今は真昼間、それ以前にキャストが私じゃな…。
お腹がいっぱいになったところで、クイーンズスクエアとランドマークプラザをふらふらと回ってみる。 ランドマークプラザのとあるお店にいるとき、館内放送が流れた。 火災報知器が作動したとかで、点検しているとのこと。しかも、鳴ったのは私がいる階だったのだ。 「次の放送にご注意下さい」と言われたけれども、私はその後すぐにランドマークから出てしまったので、真相は分からずじまいだった。 ランドマークプラザで火災が発生……などというニュースは聞いていないから、きっと何か誤作動だったのだろう。
駅から家までの帰り道、落ち葉をカシャカシャ踏みながら歩くのが愉快だ。 家の近所でも風は少し強くて、枯葉が一枚、膝の上にひらりと舞った。
|