きなこ日記
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2012年11月19日(月) 息を潜めて

というか、夫の一挙手一投足、呼吸の音にまで、聞き耳を立てて、気配を伺って暮らしている。
目覚ましが鳴れば、普通にむっくり起きてくるのだろうか。
起きてきたときの顔色はどうだろうか。
朝食の箸の進み具合はどうだろうか。
食後にトイレに入れば、吐き戻しはしないだろうか。
2階へ上がっていけば、ちゃんとスーツに着替えて降りてくるだろうか。
手に弁当とバッグを持って玄関に降りてさえ、行ってきますという言葉の後でさえ、車に乗り込んでエンジンの音がして、それが敷地から出て、幹線道路に出て行ってさえ、私は夫のサインを見逃すまいとしている。

行ってきますの後で、軽いキスとハグをするのが結婚以来の儀式なのだが、不安や抑鬱が大きいときなどは、ハグは、しがみつくような強さの時もある。同じ強さで抱きしめながら、なんて言えば、この人の気持ちを少しは楽にしてあげられるだろうか、こう言ったらいいのか、これは言ってはいけないのか…。言葉を選んで選んで、頭の中でたくさんシミュレーションして、ようやく台詞を絞り出す。ふいに、読書をしていて良かった、物書きでいて良かったと思うことがある。

夫が家に帰ってくる時間が近づくと、また私は落ち着かなくなる。無事に帰ってくるだろうか。なにか不慮のことがあって、思いもかけない行動に出ているのではないだろうか。今夜はそんなにして過ごしている時間に、表を救急車が通っていった。ビリビリッと背を貫くような、感覚に襲われる。地鳴りの後に、地震に備えるときの感覚に似ている。

無事に帰ってくると、仕事の話はしない。今日は普通?とだけ聞く。顔色が明るいとほっとする。夜はたいてい、子どもたちと一緒に布団に入る。私は遅れて寝室に行く。耳を澄ますのは、夫の寝息を確かめるためだ。眠れていると、安心する。
こうして私の一日が終わる。


きなこ |MAIL

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