ずいずいずっころばし
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BSでピアニストの館野泉さんの番組をみたら感動で胸がいっぱいになって他の事が考えられなくなった。 ピアニストが脳梗塞になって右手が麻痺してしまったら・・・・絶望。 館野泉さんはフィンランドを中心に活躍しているピアニスト。 コンサート会場で演奏中に脳卒中になり、右手が麻痺してしまった。 ピアノが命であるピアニストが弾けなくなると言うことは死と同じだ。 息子さんが左手だけのピアノ曲を見つけて演奏を促したのがきっかけで左手だけで演奏することをはじめた。 シベリウスの家で彼が愛用していたピアノで左手だけで館野さんは弾いた。 父上が亡くなったときも、このシベリウスの家のピアノを弾かせてもらって亡き父に捧げたという。 弾き終わった館野さんは感無量の面もちで涙をうかべてこういった。 「ありがとう。・・・・誰に言っているのだろうか・・分からないけれど、今はありがとう。」 「嗚呼!、気持ちがいい」そう言って心よりの満ち足りた顔になった。
絶望の淵から蘇った喜びは「ピアノがまた弾けること」。館野氏が信心があるかどうか分からないけれど、信心のないものでもこうした深い喜びにたいしては、何か大きなものへの感謝の念がわきあがってくる。
私も死の淵から蘇った日、雲も、風も花も全てのものが美しく、生きていることの喜びに打ち震えたことを覚えている。館野さんと同じようになにものかに、おそらくすべてのものに「ありがとう」と言いたかったものだ。
館野さんの奏でるピアノには上手い下手や、通り一遍の評価など無用。 所在なげな虚ろでさえある麻痺した右手は膝の上。その右手が演奏中に今にも弾きそうに時々動く。 ピアニストとして世界をまわり奏でてきた両手。 かつては背筋を伸ばして弾いた姿勢も片手だけをうごかすゆえ丸くなる。 一つ一つの音の粒がきらめく。 命のきらめきのように。フィンランドの湖面に映る陽のきらめきのように。 全霊が左手に。 弾き終わって静かに目をつむる館野さん。
「ありがとう・・誰にいうのだか?でも今はありがとう」 「嗚呼、気持ちがいい」
穏やかで満ち足りた顔だった。
今日はこの感動を深く心に刻んで一日の終わりにしたい。
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