ずいずいずっころばし
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父は不思議な人だった。 幼い私に李白の詩を読んで聞かせてひとりで頷くのだった。 私はどう聞いてもお経にしか聞こえない李白をBGMによそごとを考える。
ちょうど今頃の季節になると、独り静かに独酌しながら、これまた幼い私に「山中対酌」をつぶやいてみせる。
曰く: 「山中対酌」 両人対酌山花開 (両人対酌して山花ひらく) 一杯一杯復一杯 (一杯一杯 また一杯) 我酔欲眠卿且去 (我酔うて眠らんと欲す 君しばらくかえれ) 明朝有意抱琴来( 明朝 意あらば琴を抱いて来たれ)
つまり 山中誰にも邪魔されることなく 二人差し向かいで いっぱいやっている。折から季節の花が咲き乱れ ここは楽園のようだ。一杯一杯と杯を重ねる。 ああなんと気持ちのいいことか。いよいよ眠くなってきた。 君はしばし帰っていてくれ、私はこの眠りを楽しむ こととしよう。そうだ、気が向いたら明日の朝、琴を 持ってもう一度きてくれ。今度は君の琴を聞きながら いっぱいやろうじゃないか。
と、おかっぱ頭の女の子をつかまえて呪文のようなもの。 女ばかり三人の娘。きっと息子と酒を酌み交わすのが夢だったに違いない 気の毒なお父さん!こんなに美しく愛らしい娘でごめんなさい!(?)
しかし、三つ子の魂百までとはあな恐ろしや!こうして時々、花を酒のお供に庭を 眺めているとふと「一杯一杯また一杯、我酔うて眠らんと欲す・・」と言う句が私の口を つく。 小学校の時、国語の時間に、知っている歌を一つ挙げてみろと言われ 「は〜い、先生!しらたまの歯に染みとおる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり」 と言ってしまった私って酒精? さて、この辺でお酒の話しにふさわしい歌を挙げて締めくくりとしよう。
対酒(白楽天) 蝸牛角上争何事 (かぎゅうかくじょう何事か争う) 石火光中寄子此身 (せっかこうちゅう此の身を寄す) 随富随貧且歓楽( 富みに随い貧に随いしばらく歓楽す) 不開口笑是痴人( 口を開いて笑わざるは これちじん)
つまり 物事を大きな目で見ると、全く意味がないほど小さな事で いったい何を争っているのか。まるでカタツムリの角の 上のことではないか。実に愚かだ。 人生は石火の如く過ぎ去り、そこに身を寄せるはかなさ。 お金持ちはお金持ち、貧乏は貧乏、分に応じて とりあえずは酒を飲もう。 口を開いては悩み、悲しんだりするなんてバカげたこと。 大いに笑おうではないか!
まことに言い得て妙。父に献盃!
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