ずいずいずっころばし
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2005年05月29日(日) 光と影

ペンシルバニア大学に留学していた次姉は最初、寮に入り、後に友人たちとシェアして一軒家に入った。
私がイギリスでホームステイすると言うと家族全員の反対にあった。
わがままで他人と暮らしたことがない私が外国人の家庭で上手くやっていけるわけがないというのがみんなの意見だった。
でも私はイギリスの普通の家で、普通の暮らしを英国人と共にすごしてみたかった。寝食を共にしてはじめてその国を知ることができ、暮らしの中から学ぶことのほうが意義があるし、それよりなにより、「家庭」がなければ過ごせない私の習性がそうさせたのだった。
「ただいま〜」と帰宅して待つ人がいない家は「家庭」でなく、物理的な「家」でさみしい。
さみしがりやで人恋しい私には「家」でなく、「家庭」がなくてはならない。
夕食の手伝いをしながらママの味を教えて貰ったり、学校をさぼったのがばれて台所でママに叱られている高校生のイアンの後ろで私まで叱られているような気持ちになって小さくかしこまって聞いていたり・・週末に帰ってくる女子大生のクレアはへそピアスをしていて、百合もやれとけしかけられたり・・・
長女のクローリーとは、長電話のことで大喧嘩したり、・・・
そんなどこの家でもあるような出来事を寮やフラット(アパート)に住んでいては出来ない事柄だった。
でも一度だけ短期間、寮に入ったことがあった。厳しい寮監が午後9時になると点呼にやってくる。
だらしなく部屋が散らかっていないか、危険物がないか、男の子を隠していないか(?)などをチェックする。
ロシアからの留学生は学校一の美貌の持ち主だったけれど、みんなから嫌われていた。
幼い頃から英国の学校に放りこまれていたせいか(?)、手くせが悪かった。国へ帰ることも出来ず、両親は会いに来たこともなかった。お金はたくさんあるようなのに、人の物を盗る。けちでどんなものでも欲しがるのだった。物欲でなく、精神が餓えていたのだろう。
英国に来て最初の頃、友人もなく、ぽつんとしていると、この子が私の机に何かを放り投げた。見るとキャンディーが一つ。
にこっと笑って、目で食べろと合図した。
思わず私も笑ってそれを食べた。
心にしみるような甘さだった。
おそらくこの子が他人に分け与えた初めてのものだったに違いない。
さみしさを誰よりも身にしみて知っているただ一人の女の子だった。
その後も、多くを語り合うほど仲良しにはならなかったけれど、すれちがうとき、お互いに温かなものが流れあうのを感じた。
そんなとき、二人ともほんの少し、”孤独”という文字が心から薄らぐのを感じあうのだった。
物には光と影がある。
人の心にもみえない影がある。
そんな陰影をそっと汲む心があってほしい。
欠点ばかりをほじくり返したり、弱いところを叩く心ばかりが育つことのないように・・と思う。
母を亡くし、父を亡くし、・・・
私のさみしさにじっと寄り添ってくれる野の花。
その野の花に心を寄せるとき、いつもあの子をおもいだす。


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