2009年01月22日(木) |
汚れた服のあの不思議な女性は、もしかしたら… |
さて、またまた昨日からの続きになります。
不思議な女性がいよいよ立ち上がったので、 私も立ち上がり、降りるべく出口に向かおうとした、 その時だった。
ドン
と、にぶい音がしたのだ。
びっくりして、音のした方を見ると、 杖を持った70代くらいのおばさんが、 バスの中で滑って転んだのだった。
おばさんは、シルバーシートに座っていて、 お客さんがいなくなったので、立ち上がり、 出口に向かおうとしていたらしいのだが、 そこで、お尻からすてんと転んでしまったのだ。
「あ、大変っっ!! おばさんを起こさなくちゃ」
私の前にいたかの不思議な女性は、 すでに、おばさんのところに駆けつけて、 おばさんを起こそうとしていた。
もちろん、私も大急ぎで駆けつけて、 おばさんをいっしょに起こそうとした。
ところが、このおばさん、 重くて、二人の女性でも、 立ち上がらせることができない。
起きあがらせ方が下手なのかもしれないが、 動転して、あわてていたので、 どうしてもうまく起こすことができないのだ。 おばさんは、自力でも なかなか起きあがれない感じだった。
どこかを痛めたかしら… 大きな音がしたから、とも考え、 できるだけ静かに起こそうとした。
しかし、おばさんは起きあがらない。 女性二人で必死で起きあがらせようとしても。 一生懸命になっていると、そこに 運転手さんが、
「どいて、女性じゃ無理だよ。 そんなやり方じゃダメだ! オレがやるから、どいて」
と、言って大急ぎで駆けつけてきた。 体格もよく力もありそうな運転手さんだった。 私たちは、おばさんから離れた。
すると、運転手さんは、 おばさんの背中の方にまわり、 おばさんの脇の下に手を入れて、 えいっ、力を入れて、引き上げた。
すると、おばさんも、滑る床だったけど、 せいいっぱい足に力を入れて踏ん張り、 なんとか、立ち上がることができたのだ。
ああ、よかった、 おばさんが、立ち上がった! よかった、どうやら、 大丈夫らしい…
と、私が思った瞬間だった。 かの不思議な女性が、そのおばさんの 汚れた服を、手袋で拭きだしたのだ。
おばさんの服は、雨で汚れた床だったので、 かなり汚れてしまっていたのだ。 それを、自分の手袋で、ていねいに そう、片方ずつ違う手袋で拭いていたのだ。
汚れることをいとわず、 まるで、普通のことのように、 すっすと、何も言わずに。
私は、あわてて、テッシュをだして、 いっしょに拭きはじめたが、 あまり量はなかったので、すぐに汚れてしまった。 とてもそんなものでおさまる汚れではなかったのだ。
すると、運転手さんが、 運転席の側にあったタオルを 持ってきてくれた。
それを、不思議な女性が受け取り、 なんとかおばさんの服をふき取ることができた。 もちろん、シミは大きく残ったが、 それでも、大分汚れをふき取ることができた。
おばさんは、この状態にやや呆然としていたが、 少し落ち着くと、こう言った。
「どうもありがとうございます。 もう、大丈夫です。 どうもすいません…」
そして、私たちに頭を下げて、 バスを、ゆっくりと降り始めた。 私たちも、おばさんが歩けることを確認し、 ほっとして、おばさんがバスを降りるのを見ていた。
しかし、雨がまだふっていたし、 少し心配だったので、 駅に向かおうとするおばさんに 私は、傘をさしかけて、 駅までいっしょに行こうとした。
すると、おばさんは、 こう言ったのだ。
「あのね… 大丈夫です。 傘、なくても、 大丈夫です」 「でも、そこまでですから…」
と、私が言うと、 おばさんは、もう一度、 しかしきっぱりとこう言った。
「あのね、大丈夫なの。 大丈夫だから…」
こうまではっきりと言われたので、 私は傘をさしかけるのをやめた。 きっと、おばさんは、いやなのだろう。
おばさんは、ゆっくりと雨の中、 荷物を引きずりながら、駅の方に向かった。
![](http://usrimg.enpitu.ne.jp/usr10/104435/2009/20090122obasan1.JPG)
その後ろ姿を見ながら、 私と不思議な女性は、目を合わせて、 なんとなく頷きあった。 私は、この女性に、こう話しかけた。
「汚れちゃいましたね、 大丈夫ですか?」 「大丈夫です、 もともと汚れていたし…(笑) 洗えば、大丈夫だから」
女性は、こうくったくなく言うのだった。 女性の服は、さっきより汚れていたように見えた。 おばさんの服を拭くときに汚れたのかもしれない。
しかし、それには触れず、 私たちは、ちょっと笑い合い、 さよならを言って、 このバスからそれぞれ離れた。
![](http://usrimg.enpitu.ne.jp/usr10/104435/2009/20090122obasan2.JPG)
私は、この不思議な女性と 別れてから、ふと思った。
あの汚れた服は、もしかしたら… こんなふうに誰かを助けるか何かして、 汚れたものだったのかもしれないなぁ… きたないからイヤだ、なんて 思ってしまったなぁ… 悪かったなぁ… あの人は、もしかしたら、 天使だったのかもしれないなぁ…
なんて。 そう思って、ちょっぴりうきうきし、 雨の日もバスも悪くない、と思ったのでした。
というわけで、雨の日のバスの出来事でした。
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