2008年02月06日(水) |
コーヒーのおかわりはいかがですか?その2 |
さて、昨日からの続きです。
おじさんは、 クリームなしのホットケーキを 嬉しそうにほおばりながら、 私たちの方をみて、にっこりとし、 そして、こう話しかけてきたのだ。
「ここは、居心地がいいねぇ〜 家にいるよりずっといい、あったかいしね。 コーヒーだって好きなだけ飲めるしね」 「そうですね、居心地いですね」 「うん、とくに、この店はいいんだな」 「そのようですね…」
私たちは、おじさんとこんな話を交わた。 すると、そこに、店長がなにげなくやってきて、 私たちの会話に加わったのだ。
「このホットケーキでよかったですか?」 「いいよ、これでないと、ダメなんだ。」 でも、おいしいよ、このホットケーキも」 「じゃ、よかった…」
そんな話をしながら、店長も私たちに 笑いかけてきて、
「コーヒーが、入り用でしたら、 声をかけてくださいね」 「はい、ありがとうございます」
などと、言ってくれた。 本当に気持ちいい対応をしてくれる店長だった。 そんな何気ない会話を交わしていると、 このおじさんが、突然、にこやかに こんなことを言い始めたのだ。
「あのね、私ね、今、 実は小説を書いてるの。 芥川賞をねらっているんだよ。 本当だよ。 そうして、芥川賞をとったらね、 この店のことを紹介するんだ、 ね、店長」
すると、店長は頷き、
「はい、そうです、 ぜひ、やってください。 楽しみにしています」
と、答えた。 私たちも、嬉しくなってこう答えた。
「そうなんですか、いいですね。 目標があるんですね」 「うん、本気で書いているんだよ。 だから、ここがありがたい場所なんだ。 ゆっくりと考えられるから」 「ファミレスは、本当に落ち着きますよね」 「うん、落ち着く…」 (店長)「ありがとうございます」
なるほど、おじさんは、こんな目標を持ち、 そのために、この店で書きものとをしているのだった。 私自身も、書きものをするときは、 近所のファミレスに行くことが多いので、 おじさんの気持ちがよーくわかった。
そんな、会話がなされたあと、 またそれぞれが自然にバラバラになり、 おじさんは、また小説を書きはじめ、 店長は持ち場に戻り、 私たちはそろそろ帰り支度をはじめた。
そのとき、 おじさんが突然立ち上がった。 そして、その姿を見たとき、 私たちは、はっとした。
おじさんは松葉杖を使って よろよろと立ち上がった。 その足を見たとき… 私たちはびっくりしたのだ。
片方の足がブランとしていて使えず、 もう一方の足も、義足のような ものをつけていたのだ。
おじさんは、トイレにでも行くために 立ち上がったのかもしれない… その姿をみると、店長がとんできた。 そして、手を貸そうとした。
すると、おじさんは、 首をふり、その配慮を断った。 そして、こう言ったのだ。
「大丈夫、できることは 自分でするからさ」
店長は、頷き、引き下がった。 おじさんは、松葉杖を不器用に扱いながら、 ゆっくりゆっくりとトイレの方に向かった。 私たちは、その姿を呆然と見続けた。 歩くのがとても大変そうに見えたのだ。 店長をみると、店長もおじさんの姿を見続けていた。 何かあったら駆けつけようとしているのだと思う。
私たちは、帰ろうと思ったが、 おじさんに、ひとこと挨拶してからと思い、 おじさんが戻ってくるのを待つことにした。
しばらくすると、ゆっくりゆっくりと、 おじさんが戻ってきた。 そして、かなり大変そうに、 座席にすわった。
おじさんが、この店でゆっくりとしているのは、 ただ居心地がいいだけではなく、 動くのが大変でもあることを私たちは理解した。
ややびっくりしている私たちに向かって、 おじさんは、またにこっと笑いかけて、 こう言った。
「足ね、 使えなくなっちゃったの。 使えないと大変だね」
私たちは、なんと答えていいか 困ったけど、おじさんは、そんなことに 負けていないように見えたので、
「大変ですね、でも、小説は書けますから、 よかったですね、手でなくて」
などと、答えた。 おじさんは、大いに笑って、
「うん、その通りだ。 書けるからね、小説を」
と答えてくれた。 私たちもホッとして、笑った。 そして、最後におじさんに、
「芥川賞、とってくださいね。 そしてこの店、紹介してくださいね。 応援してます。では失礼します」
と、挨拶をして立ち上がった。 おじさんは、うんと頷き、 私たちにさよならを言った。 私たちも、さよならをした。 そして、店長にお礼を言い店を出た。 店長は、にっこりと笑って送り出してくれた。
店を出てから、私たちは、 とても、ほのぼのとした気持ちになり、 あのおじさんが、芥川賞をとることを 本当に、心から願ったのでした。
そして、あのおじさんが帰るときには、 誰かが迎えにくるのだろうか、 それともおじさんがゆっくりと一人で帰るのだろうか、 などと、心配になったのでした。 どうだったんでしょうね。
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