暴かれた真光日本語版
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2004年11月20日(土) 信仰と医療

317 信仰と医療(1) 2004/02/29 13:25

岩波書店「現代の宗教」第9巻「現代医学と宗教」
日野原重明(聖路加国際病院名誉院長)著 1997年
112-121頁 「信仰による癒し」
  ◇
 昔から、神仏への祈りにより、または特別な治癒力をもつ人――それには奇跡を行ったイエス・キリストの業も含まれるが――により、病いが癒されたという事例が多く言い伝えられている。
 これに対して近代科学としての医学は、その存在を強く否定するが、心身医学や精神分析、催眠術の側からは、治るべき病気が理に適って治癒されたと説明されてきた。
 しかし、信仰をもつグループと、そうでない集団とを比較して、信仰や祈りの行動が病気を癒したり、悪化を防いだりする何かの力を生じると結論されるような調査研究は今日まで十分になされていたとはいい難く、ただ何かの希な症例を挙げて紹介するといったものしかなかった。それらの症例の中には、治療しなくても、癌が治癒した例として報告されたものがある。しかし果たしてそれが病理学的根拠をもつものかどうかをさか上って調べることは非常に困難なために、実証の上に成り立つ近代医学は、その存在を否定してきたのである。
 最近の研究では、レラクゼーションにより大脳内のモルヒネ系ホルモンの分泌が増え、それに関連したホルモンの量が影響されることもわかり、それが人間の感染や免疫力によい影響を与え得ることが次第に明らかにされてきた。
 そのような精神力、もしくは精神作用に当人の信仰が何らかの影響力を与えることの可能性は否定できないと言う調査研究が、21世紀を前にアメリカなどで行われ始めている。
 信仰によるもの以外に、当人のもつ治癒力によい影響を及ぼすヒーラー(治療者)ともいうべき特殊な人格をもつ人のあることも、全く否定することはできない。
 1996年9月発行の『ライフ』誌と1996年6月24日号の『タイム』誌が期せずして、西洋医学が扱わなかった東洋医学の漢方や鍼、気功、ヨーガ、さらにヒーリングと呼ばれる信仰医療、その他の伝統的な民間療法などをとり入れた治療法を紹介し、西洋医学側の医療職や一般人の注目をひいた。
 『ライフ』では、「癒しの革命」(“The healing revolution”) と題する特集号で、表紙には「外科か鍼か」「化学療法かハーブか」「その両者を併用する優位性」と謳い、かぜから心臓病に至るすべての病気を治療するために、「古代医療」と「ニューサイエンス」とが混じり合いつつ行われているとある。近年、西洋医学に東洋医学を導入するとともに、宗教的信仰(信仰治療)の有効性が注目され、それらを統括して医療に積極的にとり入れようとする(統合的医療)こそ本当の全き医療であるという説も紹介されている。そして、在来の西洋医学中心のアメリカ医学の変貌を期待する医療職や一般人の数が次第に増しつつある現状が報告されている。
 同誌には、医療革新の例として、次のような記事が紹介されている。
 ニューヨーク市のコロンビア大学のプレスビテリアン医療センターで、69歳の元デパート支配人のヨセフ・ランダゾ氏の心臓バイパス手術が七人の外科医によって行われた。この手術中に、エナージーヒーリング(人間はその皮膚の外にもエネルギーの場をもち、訓練を受けたヒーラーが手を頭の上に差し延べることにより、エネルギーを患者に与える)を行ったのは、36歳のメメット・オズ医師であった。この患者の枕元には、ナースであって、その上この治療的タッチの訓練を受けたものが立ち、患者の頭の上に手をかざし、彼女からのエネルギーを患者の体内に送るというアート的医療がなされたという。
 また、1995年には、ワシントン市で「医療における補足的療法に関する世界会議」が開かれ、ここでは非正当派医学に属する医師でも、医師と患者との間のヒーリング、パートナーシップの重要性を説くものが多かった。しかし、正当派医学の立場を守る医師は、この非正当派の医師による医療の実態はまやかしに過ぎぬとして、信仰の効果と信じるものはUFOを信じる天文学者のようなものとして、非正当派の医師の行う医療を全面的に否定するものが多かったという。


318 信仰と医療(2) 2004/02/29 13:27

 一方、『タイム』の1996年6月24日号にも、「あなたの信仰はあなたを全人的にするか」というタイトルの記事を六頁にわたってとり上げている。そして、信仰の力が癒しを行う秘蹟を、正統派の医師も再検討すべきムードが医学界の中でも起こっている事実を紹介している。つまり、祈祷や信仰、または霊性が、実際に人間の健康を保つ力があるという事実を受け入れなければならないとして、宗教心のある人のグループが、そうでない人のグループよりも、よい健康状態にあるという事例を報告している。
 ダートマス・ヒッチコック・メディカルセンターでの1995年度での報告では、232例の心臓手術のうち、手術成功率は、宗教的な力で安心感と力を得ているものが一番多く、死亡率は、信仰のない群に比べ信仰のある群のほうが、三分の一以下だったことが報告されている。
 血圧についての研究では、教会に忠実に出席している信者群は、教会に行かない群よりも、平均して5mmHgだけ低いという。またうつ病の発症についても、教会に行く群は低いという報告もなされている。
 ハーバード大学のハーバード・ベンソン博士のベストセラー書「リラクセーション反応」によると、黙想することにより、心拍、呼吸数、脳波などは鎮まり、筋肉は弛緩し、アドレナリンやその他のストレスを起こすホルモンの分泌が減少するとある。
 ニューヨークのロチェスター大学の神経生物学のD・フェルテン教授は、瞑想や心の平静をもたらすことはホルモンの働きにも、また免疫系にも影響を及ぼすと述べている。リラクセーションと宗教的経験は、脳の中で同じ中枢に働くとも考えられている。
 リラクセーションにより不眠症患者の75%は睡眠がとれるようになり、不妊症の35%の婦人が妊娠し、慢性の痛みをもつ患者の34%は鎮痛薬の服用量が減じたともある。
 さらに1996年のアメリカの国立加齢研究所の報告では、北カロライナ在住の宗教行事に参加するグループは、うつ病になる率が少なく、より健康状態にあるという。また股関節骨折の女性患者30名について調べたところ、神が癒しと慰めの源であると信じるグループでは、退院時の歩行距離が長く、またうつ状態になるものが少なかったという。信仰をもつ人のほうが、そうでないグループよりもアルコール、タバコ、麻薬その他のよくないものをとる習慣が少ないことも健康状態を保つ因子として、同時に貢献しているものと考えられる。

表1 あなたは信じますか
(1) 個人的な祈りの中で癒しの力を信じますか
  <はい>  82% <いいえ>  13%
(2) 他の誰かのために祈ることが、その人の病気の回復に役立ったと思いますか
  <はい>  73% <いいえ>  21%
(3) 重症の病をもつ人の治癒に神の存在をしばしば感じますか
  <はい>  77% <いいえ>  18%
(4) 信仰をもった癒し手(医者、宗教家等)には彼らの信仰を通して、または個人的なタッチによって人々を癒す力があると思いますか。
  <はい>  28% <いいえ>  63%
(5) もし患者が臨むなら、医師たちも患者たちの祈りの座に連なるべきだと思いますか
  <はい>  64% <いいえ>  27%

 また、『タイム』の行った一般人1004名からの電話による調査では、信仰の力に関して上記の表のような結果が得られたと報告している。
 このような記事をアメリカの教養人を対象とした一般誌がとり上げていることにもっと目を開き、在来の西洋医学一点ばりの硬い考えはここで打破され、信憑性の高い事実は勇気をもってとり上げるべく反省すべきであると思う。


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 なお、『タイム』誌には、エイズ患者の闘病中にみられる霊性の働きについての記事も紹介されている。
 その中には、ニューメキシコ州のイーサ・ソラッコ (Eethe Soracco)でローソクを灯し、香を焚き、バラの花で飾った祭壇に、1995年10月から10週間、毎日エイズ患者が祈祷を捧げる集団と、そのような行事を行わない各20名のエイズ患者の集団の比較研究が、サンフランシスコのカリフォルニア太平洋メディカル・センターのE・タッガ精神科医によって行われたという。その結果は、信仰者の群れに有効性が見られたので、将来1000名のエイズ患者に拡大しての研究が準備されている由である。
 多くの新興宗教の中には、教祖の持つ予見力や治癒力が信者を急速に増加させた例があるが、それが果たしてトリックなしにされたのか、不純なトリックであたかも教祖が超能力をもつように演出したものであるかを正しく識別することは、なかなか難しい。最近のオウム真理教のごとくに、純粋な信仰を求めて入信した者が強力な教祖の権威と暴力によって、いったんその宗派の中で各自の役割をもらうと、もうそれから逃れることができなくなるという機構を持つ偽宗教もある。その際は仕掛けられた奇跡または見かけの偽超能力を一般人がどう見抜くか、この点にわれわれのこれまで培ってきた正しい科学による判定力がどこまで真実を解明できるかが試されている。
 アメリカの医科大学の中には"caring for the soul"(魂へのケア)と呼ぶ全人的医療を標榜する科を設けるところが増しつつあるという。先端科学万能への魅力の喪失の影が、20世紀末に顕在化したとも言うことができよう。
 近代医学は多方面に進展し、臓器移植や遺伝子医学などの面で大きく発達したが、ライフスタイルによってもたらされた生活習慣病を撲滅するまでにその力を発揮することは20世紀末の今日においてはまだ成功していない。
 今日、医師の診療を求めてくる患者の60-90%は心身のストレスによる病気である、とボストンのディコネス病院心身医学研究所長のH・ベンソン博士は述べ、在来の医学が、生活習慣病の薬物的、外科的治療にはうまく成功していないと反省している。
 おおよその目安であるが、アメリカでは1年に300億円が近代医学以外の、信仰療法をふくめた医療費として費やされているという。また新しい医療や東洋医学的療法に関する本やテープの売れ行きが増しているそうである。
 これまで信仰療法な関する文献はあまり日の目を見なかったが、元米国NIH(National Institute of Health)研究所の精神医学者、D・ウィルソン博士は、宗教に関する病気の癒しの文献がすでに200以上もあることを報告している。


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