2005年05月14日(土) |
『ヒミツノサンカク』第一話の日 |
『オーバー・ザ・ホライズン』の感想めっさ書きまくってたのにー! 2000文字は超えてたのにー! 何でボタン一つで消えちゃうのー!?
こういう時に限って「草稿保存」ボタン押し忘れてるんだよなー。(←真理だ)
4月18日の日記で、挙げた新連載小説候補の中で唯一反応があった一人称ラブコメディ小説、『ヒミツノサンカク』 ある程度設定が固まったのでとりあえず一話分書き下ろしてみました。一応反応をみるために、こちらに掲載し、反応を見たいと思います。
というわけではじまりはじまりー。
ヒミツノサンカク
1『幼馴染みと親友と』
俺の名前は大戸雅男。 違う。姓はオオトで合ってるが、名前はマサオじゃない------ミヤビオだ。
「サクラコがいるんだ、ミヤビオがいてもおかしくないだろう」
これは名付けた父親の弁だが、それは他人事の弁だと俺は思う。子供の頃から経験してきた苦労の半分は名前からきたんだ。それで、ここまでマトモに育ったのは奇跡だろう。 うちの母親もそれを危ぶんでそれには反対したらしいが、つまらない夫婦喧嘩をさっさと収める為に家族で採択されている単純で平等なシステム、有り体に言うとコイントスの結果、母の反論は却下されてしまったらしい。よって子供の命名にコイントスなんぞでアッサリ下がった母親も同罪であると俺は考えている。 大体何処の家庭にコイントスで子供を命名する親がいる。つまらない議題じゃないんだから夫婦でトコトン話し合いやがれ。 改名してやりたかったが、調べてみたら改名には家庭裁判所の許可が要るらしい。ミヤビオは確かに珍妙な名前だが、社会生活が切羽詰まるくらい支障があるわけではないので、どうも許可を得られる見込みはなさそうだ。ちなみに戸籍法207条の2、だ。
だが、今日は日曜日。名乗るだけで掴みがとれる名前が運んでくる煩わしい面倒から解放される日。特に予定はないが、読みたい本もあるし、観たいDVDもある。親も今日はいないし、いい日になりそうだ。 充実した一日を過ごすためには頭をしっかりと覚まさなければと、俺は新聞を読みながら、テーブルで湯気を立てている珈琲に手を伸ばし、一口、口に含み------
盛大に噴き出した。
「由香子ぉーーッ!」 俺が反射的に頭の中に上がっていた名前を叫ぶと、台所から、ぺたぺたとスリッパの音を立てて入ってきたのは俺と同年代の女が入ってくる。 身長は170ちょい。ほとんど俺と一緒なので女としては背が高い。その割に首の上に載ってる顔は童顔の部類に入っており、あまり認めたくないが、十人に聞けばその十人が可愛いと答えるだろう。高校の時、コンテストで見事学園アイドルの座を得ているので実績はある容姿だ。 名前は千原由香子(ちはら・ゆかこ)。生まれた時からのお隣さんで、つまり“幼馴染み”というやつだ。隣とは家族同然の付き合いで、コイツはうちの合鍵を持っているし、しょっちゅう遊びに来るので別にここにいても不思議じゃない。
「あーっ! みやクン吐き出しちゃって汚〜い! 後始末は自分でしてよね」 「やかましいっ! 珈琲に豆板醤混ぜといて、どの口がナニ抜かしやがる!?」 喉の焼け具合からしてタバスコも混じってる、絶対。 本人としての感覚は、本当に火を吹いている気分の俺の怒鳴りに対し、由香子は心外そうに口を尖らせて、 「え〜、でも紅茶にジャムを落とすのがアリなら、珈琲に豆板醤ぐらい」 どっかにいるネーミングセンス最低のクソ親父のよーな言い訳を……なら、俺が緑茶に味噌を混ぜたら飲むんだな? あー、色とか想像したくねぇ。 「いい加減に人を実験台にするのを止めろ! てめえで味見はしたんだろうな!?」 「うん。結構イケると思ったんだけど……」 ……相変わらず壊れた舌してやがる。あの地獄六十丁目はカンペキ超えてる辛さを“イケる”で済ませるとは。 コイツは昔からこうだ。やたらキテレツなもんを作っては俺に味見をさせやがる。なまじ自分が味オンチなの知ってるから、自分で味見をした後でも必ず俺に食わせる。 別に由香子の創作料理はそんな変なモンばっかりじゃない。作ったモンの半分は旨いし、その中の一割はプロでも唸るんじゃないかってくらい旨い。でも失敗の五割を食う時は、被害者はいつも俺だけだというのは不公平じゃないか? 「でもみやクンいつも言ってるじゃない。珈琲を美味しいとは思わないけど、頭が冴えていく感覚が好きだって。------頭、覚めたでしょ?」 上目遣いに見る由香子。コイツ、ちっとも懲りてねェ。 「ああ、ああ、頭スッキリだよ! 代わりに口が壊れたけどな!」 これから数日間、マトモにメシが食える気がしねぇよコンチクショウ。
「で、何の用だよ?」 俺の平穏な日曜日をいきなりブチ壊したからには、それなりの用があるんだろうな? 大体------ 「お前、東(あずま)とどっか行くんじゃないのか?」 「うん行くよー。どこかは知らないけど。そろそろ出て行く時間かな」 そりゃ珍しいな。大抵の場合は由香子がいろいろ段取りするのに。 「じゃ、こんなところで油売ってねぇでとっとと行けばいいだろ」 お前さえいなければ、俺は心静かに日曜日が過ごせたんだ。激辛珈琲で既にそれが見事なまでにブチ壊しになったが。 「油なんて売ってないわよ。私はただ迎えに来ただけなんだから」 “ただ”迎えに来るなら文句は言わねぇよ。余計なことさえしなかったらな。……って今、この女なんて言った? 「“迎え”に、きた?」 「うん、そーよ。みやクンも一緒に行くんだから」
「何が悲しくて独り身の俺が、お前らのデートについて行かなきゃならんのだ!」 「でも、それでも来てくれるところが雅君だよね」 俺の魂からの叫びに対し、にこやかに返事をしたのは長身の男だ。顔はいわゆる甘いマスクというやつだが、あまりファッションに執心している様子がないためあくまで素朴な外見。 コイツがさっき言っていた三国東(みくに・あずま)で------由香子の彼氏だ。ちなみに、由香子はさっきから東の左腕にぶら下がるように抱きついている。方向が名前なんて変わってるでしょ、と本人は初めて会った時に苦笑したが、俺は自分の名前が名前だけに笑えなかった。
「そもそも俺を呼んだのはお前らしいな」 俺ははじめ誰がついて行くか、と断ろうと(それが当然の反応だと思う。誰が好き好んでノコノコお邪魔虫になりに行こうと言うのか)、ついて行かなきゃならん理由を聞いたのだが、由香子が言ったとおり、今回は東の立案、計画で何も知らなかった。由香子は昨夜、今日の計画を話している時に、とにかく俺を連れて来いと言われたのだと言う。 それで却って理由が気になり、ここまでやってきてしまったわけだが。 「うん、僕だよー。ほら、今度の企画でウチのサッカー部を取材するってのあったでしょ?」 俺と東は大学でマスコミ研究会というサークルに所属している。通称はマス研で、研究会と名の付くわりに本当に記者の真似事をして、情報誌をつくる、という非常に実践的な活動をしているわけだが、割と有力な方で情報誌の方の読者も多いし、過去実際にマスコミ業界に就職して行った先達が何人もいる。プロの記者を本気で目指している俺と東がそのサークルを選んだのも当然の話だった。 「たしか日曜日に練習試合をするって言ってたから、観に行こうと思ってさ。下見はしておくに越したことはないと思わない?」 それは確かに大した心がけだと思うが。 「お前、デートにそれはあんまりじゃないのか?」 デートとサークルの取材を兼ねるなんて、由香子にとっちゃあまり面白くないだろう、と付け加えると、東はハッとした。 「そっか、そうだよね」 ちらりと東が自分の傍らに目をやる。すると、由香子はにこーっと笑みを返して言った。 「ううん、私、あずクンと一緒なら何処でも何でもいいよ!」 「うん、僕も由香ちゃんと一緒なら!」 う、非常に不味い展開だ。 「あずクン!」 「由香ちゃん!」 そして、ただでさえ寄り添っていた体勢から、さらに押しくら饅頭でもしてるんじゃないかという勢いで体重を預けあうあう二人。 ------いかん、気が遠くなりかけた。ええい、このバカを超えたバカップルめ。そう言えば、俺は免疫のあるほうだが、あるヤツがこの二人を初めてみた時、あまりの孤独感に廃人になりかけたことがあったなァ……。
その後、俺達は電車に乗って大学に向かった。電車の中で楽しそうにイチャつく二人に周りの視線が集まっているのを感じる。正直、他人になりたかったが、席を離れようとすると、二人は口を尖らせて不平を言うのだ。 「一緒にいようよー」 「私達の事嫌いなのー!?」 それが結構大きな声なもんだから、今さら他人になれないが、きっと周りの人は俺の哀れさを理解してくれるに違いない。ていうか、目を背けるな。助けてくれ。
もう一つ、俺が同情されるべき話をしよう。 実は、俺は由香子のことが好きだ。もちろん深い、恋愛感情のイミでだ。------待て。言いたいことは分かる。現在、当の由香子は俺の親友である東と付き合っているが、これは俺がぐずぐずしているうちに取られたってわけじゃない。 俺も男だ。高三の時、自分の気持ちに気がついてからは、付き合う、付き合わないは別として、俺の気持ちは伝えておこうと思ったんだ。 それが、決心した翌日にあの二人が俺の目の前に顔を揃えて報告しやがった。
「あのね、僕と」 「私ね、」 「「付き合うことになりました!」」
告白を決心した次の日にだぞ!? 分かるか、その時の俺の気持ちが!? その日からこのバカップルっぷりだ。そりゃ地獄だったよ。それでも俺がこの二人に悪い感情を抱けないのは、二人が付き合っても俺を置いてきぼりにしなかっただろうな。 東も付き合いがあまり悪くなることはなかったし、由香子も相変わらず俺の家に時々押し掛けちゃ迷惑かけやがる。
「みやクン、何ぼーっとしてるの?」 「もうすぐ降りるよ」 くっ……! コイツらにこんな注意をされるとは何たる屈辱だ。きっとコイツら結婚してもずっとこんな調子なんだろうなぁ。
そんなこんなで、俺と後ろのバカップルが大学のグラウンドに着いた時、俺は瞬時に異変に気が付いた。 「おい、東。本当に今日、ここで合ってるんだろうな」 「そのハズだけど……」と、東がゴソゴソポケットから何か紙を取り出して確認する。「あ」 あ、ってなんだ。あ、って。 俺は聞くのももどかしく、東のもっている紙を取り上げた。そしてそれを見た時、俺は血圧が一気に上がるのを感じた。 「東……てめェ……」 俺が睨むと、東が一歩下がって苦笑する。 「あはは、まさか“来週の”日曜日だったとは」 それだけじゃねぇだろ、場所も相手校のグラウンドじゃねぇか。 それに何か。俺がバカップルに引っ付いてここまで来た意味まるでナシってことか。 東、どうしてお前ってやつは、頭はいいのに、ここまでドジなんだ。そして何故そのドジにいつも俺を巻き込んでくれるんだ。 「……俺は帰るぞ」 「ちょ、ちょっと待ってよ雅君」 「えー、つまんない。ちょっと気に入らないからって帰っちゃうのって子供だよー」 踵を返した俺の袖を掴んで、由香子が言い募るが、 「やかましいっ! 今から帰ればまだ半日ある。俺は、俺の、俺による、俺の為の心静かな日曜日を取り戻す!」 そういって、俺は由香子の腕を振り解き、歩き始めた。その後ろから、由香子と東の声が聞こえる。 「ごめんねー。無駄足踏ませちゃって」 俺にはその言葉はなかったぞ。 「ううん、大丈夫大丈夫ー。それより私さ、今度学校の近くに出来たっていうペットショップ行かない? すっごい規模が多いんだって。『生きた化石からUMAまで!』っていうのがチャッチコピーなんだよ」
ぴた。
「へぇ、そんなのできたんだ。面白そうだね」 「日曜閉店なんてオチはないだろうな?」 その時、俺は確かに由香子及び東の口元がにんまりと横にのびるのを見た。 「あれぇ〜? まだいたの?」 「帰って心静かな日曜日を過ごすんじゃないのかい?」 キサマら、そう来るか。俺が生粋の動物好きなのを知っていてそう来るか。動物園が最大の癒しの場だと主張する俺に対してそう来るか。 しかし背に腹は代えられん。 「……気が変わった。どのみち今から帰っても何をするにも中途半端な時間だ」 「じゃ、決定だね」 「今日はトコトンまで付き合ってもらおうじゃないの」 目の前のバカップルは互いに目を合わせてほくそ笑みながら、俺の両腕を両脇からガッキと掴んだ。そして楽しそうに足並み揃えて俺を連行して行く。 ……コイツらは二人揃ったら俺でも手が付けられんな。
その後、その大型ペットショップでもう一騒動起こり、かくして俺の日曜日は心静かなものとは程遠いものとなったのはまた別の話である。
後日、東の家にて、俺と東が他の部員の校正をしていた時の話。
「さてと、校正は終わったな」 「お疲れさま、っと。珈琲でも飲もうか?」 言うが早いか、東はその場を立ち上がって、階下の台所に降りて行く。 残った俺が、書類を片付けていると、程なくして東が湯気をたてるカップを載せたお盆を持って現れた。 「お待たせ」と、東は俺の目の前に珈琲を置く。 「お、スマンな」 そして自分の珈琲を置いてからテーブルの中央にお盆を載せた。俺は珈琲は何を混ぜても旨くはならないと知っているので、珈琲はブラックで飲むのだが、東はかなりの甘党で、いつも砂糖を三つは入れ、ミルクを入れる。そして次に取り出だしたるは------ 「ちょっと待て。お前何を入れようとしてるんだ」 「ああ、これ? 豆板醤だよ」 悪い予感はしたのだが、見事にその予感は当たってくれた。 「こないだ由香ちゃんに教えてもらったんだけど、意外と美味しいもんだねー」 イヤ、オカシイだろいくらなんでも。お前既に砂糖をたっぷり入れてるじゃないか、そこに香辛料を入れるのは矛盾してるんじゃないのか。 呆然とする俺の目の前で東はぐいっと豆板醤入り珈琲を飲み干した。 「うん、美味しい美味しい」
------東。やっぱりアイツと付き合える男はお前しかいない。
第一話 完
警告:珈琲に豆板醤を混ぜるのは非常に危険です。絶対に真似をしないで下さい。(笑)
ここまで口が悪く、且つ不幸な主人公は未だかつて書いたことがありませんが、書いてて結構楽しかったです。 前半の雅男と由香子のやりとりは割と面白いと思うんですけど、何か後半、東が出てきてからズルズルと勢いを無くして行くのは東のキャラが立ってないからです。
しかし親友と幼馴染みとの三角関係なんてすっげーありきたりですな。 感想待ってマース。
あ。一つ豆知識。 韓国人に対して日本語で「三角関係」と言っても意味は通じます。(←実話)
|
|