おうちデート - 2011年11月26日(土) その日、漣は珍しく上機嫌だった。 珍しく?それは失礼か。 でも、ここんとこ機嫌悪かったり情緒不安定だったから、そう感じてしまうのも仕方がない気がする。 上機嫌の理由は多分明日が休みだから。 久しぶりに休みが重なったから。 「修ちゃん、お風呂入ったー」 「うん、おかえり」 どうでも良い事までいちいち報告してくれる――どうでも良いって、悪い意味じゃなくてね? 第一俺を『修ちゃん』って呼ぶのは甘えている証拠だ。 「髪、乾かして」 「良いよ、ドライヤー持ってきて」 「持ってきてる」 雑誌から顔を上げれば、既にドライヤーを手にした漣。 ん、とドライヤーを差し出されて、思わず笑みが零れる。甘えモード全開だ。可愛い。 「何笑ってんだよー」 「何でもないよ。はい、座ってー」 漣は素直に俺の足の間に挟まって、床に腰を下ろした。 いつもこう素直だと良いんだけどなぁ。 いや、いっつも可愛いんだけどね?素直だと扱い易い。 漣はテーブルに置いてあったリモコンを取って、テレビを付けた。 映し出されたのは夜のニュース。漣にとってはあまり楽しい内容ではないと思うけど、チャンネルを変えるつもりはないらしい。 理由は分かってる。漣はテレビを見たかった訳じゃないんだ。 ただ、二人っきりで何の音もしないのはちょっと恥ずかしかったんだよね。 気まずいとかじゃなくて、なんかちょっと恥ずかしいってだけ。 分かるよ、二人でこんなにゆっくりした時間を過ごすのは久しぶりだから。 ドライヤーから温かい風を出して、漣の髪を指で梳きながら乾かしていく。 さらさら、と指をすり抜けていく感触が気持ち良い。 「漣、髪伸びたね。そろそろ店長に注意されるんじゃない?」 「じゃー、切って」 「生え際も黒くなってきたし、美容室行ってきたら?」 「やだ、修ちゃんやって」 漣はコンビニでアルバイトしている。ちなみに、俺も昔そこでバイトしてて、漣と出会ったコンビニだ。 バイトとは言え、仕事には違いないのであんまり長い髪だと店長に注意される。 カラーリングは目立つほどじゃなければ大丈夫だから、漣は適度な茶髪だ。 いつもだったら、これぐらいの…肩に付くくらいの長さになったら自発的に美容室に行く漣だけど、今日は本当に甘えモードだな。 「じゃあ、明日カラーリング剤買いに行こうか?」 「…やだ」 おいおい…、俺にやってって言ったじゃん。 なのに、カラーリング剤買わないの?買わないとカラーリング出来ないよ?俺にどうしろって言うんだ。 これってツンデレさんって奴かなぁ。確かに漣はツンデレさんだね、うん。 「じゃあ、どうするの。店長に怒られるよ?」 「それもやだ…けど、明日は買いに行かない。ずっと家にいるの」 「じゃあ、俺が買ってきてあげるから…」 「修ちゃんもずっと家にいるのー!明日はどこも行かねーの!分かった!?」 ああ、なるほど。 ずっと二人きりでいたいんだ。そうか、そういう意味か。 久しぶりの休みだもんね。ずっと二人きりが良いよね。他の誰とも会いたくないもんね。 ………全っ然ツンデレさんじゃないじゃんっ!可愛いんだから、もー! 俺に背を向けている漣の表情は分からない。でも、耳まで赤く染まっていて、何を考えているかは分かる。 恥ずかしいのと、俺がどう思ってるのか不安なのと――そんな感じ。 俺は後ろから漣の首に腕を絡ませた。 「漣くん、俺一日中えっちする体力、多分ない」 「…そーゆー事じゃなくて。ていうか、俺だってないっつの」 「ま、一日中じゃなくたってね。えっちしていちゃいちゃして、ご飯食べて一緒にお風呂入ってえっちしたりしようねー」 「えっちが二回入ってるっつーの!修ちゃんのえっち!変態!」 「男ですからねー。とりあえず髪乾いたし、えっちしよっか?」 にっこり笑って漣の顔を覗き込めば、きつく睨まれて。 でも、顔が真っ赤だからちっとも嫌がってるように見えない。ていうか、嫌がってる筈なんてない。 だって、俺と一緒にいたいって漣が言ったんだから。 漣だって男だし、好きな人と一緒にいるのに何もしないなんて拷問でしょ。 「…キスしてくれたらいーよ」 睨まれたまま、そんな可愛い条件を出す漣。本当に可愛いだから。 それ、条件にならないから。喜んでするから。 漣の唇に触れるだけのキスをする。漣はそんなんじゃ足りない、って言って俺の膝の上に乗っかってきた。 そんな訳で。 明日は漣と二人きりで過ごす最高の休日決定です。 漣の美容師さんになるのはまた今度って事で。 END -
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