10.薬 (1) - 2005年11月08日(火) その日は何だか変だなって思ってたんだ。 朝から一度も明人の姿を見ていなかったし、メールも電話もなかったから。 こりゃおかしい―――そう思ったのが昼休み。 俺は四限終業のチャイムと共に、明人のクラスへと急いだ。 その時は特別心配していた訳じゃない。明人が俺の前に姿を現わさないのは、俺がなんかして明人の機嫌を損ねたか、ただ単にサボりだとかそんなことだろうと思っていた。 明人が俺に何も言わずにサボるなんて、考えにくいことだが有り得ないことではない。 電話に出ないのはやっぱり少しおかしいが。 明人のクラスに辿り着いて、中には入らずに教室を覗く。 …いない。やっぱりそこに明人の姿はなかった。 「あれ?一成じゃん。今日あんた、学校に居たんだ?」 声を掛けてきたのは、江藤という女だった。俺とも明人とも割と仲が良くて、俺達が付き合っていることを…多分知っている。 「は?どういう意味だ、そりゃ」 俺は江藤が言った言葉の意味が分からず、思わず聞き返した。 そりゃたまには授業をサボることがあるが、“今日居たんだ?珍しい”なんて言われるほどサボってはいない筈だ。 「え、だってあっきー、風邪で寝込んでるんでしょ?あっきーの一大事には飛んで行くあんたじゃん。珍しいね」 驚愕の事実だ。明人が風邪引いて寝込んでるなんて…。 「マジで!?何でそういうことは早く言わないんだよっ!」 「は?あんた、知らなかったの?私はてっきりあっきーからメールとか来ているもんだと…」 「来てない…。メールも電話も無い…。ま、まさか………死………」 「いや、それは考え過ぎ。担任が言ってたから、学校には連絡入れたみたいだけど…、ほんとに熱でダウンしてんだね」 江藤の言葉に、熱でうなされる明人の姿が思い浮かぶ。 きっと今頃、俺に助けを求めているに違いない。 「江藤、俺帰るから」 「はい、さようなら。風邪、移されないように気をつけな。ついでにあっきーにお大事にって言っといて。」 俺の行動を先読みしていたようで、江藤は午後の授業ついては何も言わない。 さっぱりとしていて、なかなか良い女だと思う。興味はないが。 返事もそこそこに、俺は江藤に別れを告げると走り出した。 明人の苦しそうにしている姿が思い浮かんで、胸が痛くなった。 続 -
|
|