Promised Land...遙

 

 

20.扉 (1) - 2005年05月09日(月)


僕が“僕”のやり方を忘れた時、僕はその扉に鍵をかけてしまう。
そうしたら誰も入ってこれない。誰もいない空間に一人ぼっち。
これって寂しいって言うのかな?
分からないけれど、僕はこの空間が好き。
一人ぼっちだと、何も考えなくていいから。
“僕”という人格を悩まなくていいから、とても楽。
それでも…、鍵をかけてもチェーンをかけないのは、きっと寂しいからなんだ。
誰も来て欲しくない―――そう思いながら、彼が僕を迎えに来てくれるのを待っているんだ。


必要最低限の物しか置いていない無機質な部屋の隅。
頭からすっぽり毛布を被って蹲る。
寒くはないけれど、身体がカタカタと震えていた。
静まり返った部屋、閉め切ったカーテン、鍵をかけた扉。
どれも僕を守ってくれている筈だった。安心しきっているせいか、音がする度にびくびくと身体が震えてしまう。
電話の音、外の工事の音、風の音。どれも怖くて怖くてしょうがない。
耳を塞いで目隠しして眠っていたら、少し安心出来るだろうか…。
電話は電話線を抜いた。携帯の電源も切った。部屋の電気を消して暗闇の中、僕はただぼんやりとしていた。
怖いんだ、外の世界が。
人に会うことが、テストが、僕の中身を知られることが怖いんだ。
一人ぼっちで生きていけたら、どんな楽だろう。何も考えずに済むのに。
それが出来ないから、僕はこうしてここに閉じ篭っている。
こんなことしたって、どうにもならないんだ。何の解決にもならない。
でも、どうしたらいいのか分からない。自分じゃ、答えが出せない。
お願い、助けてよ。どうしたらいいのか、教えて…。
身体の震えが止まらない。それどころか、どんどん大きくなっていく。


「何やってんだ、バカ」
とん、と足のつま先でつま先を突つかれて、僕は顔を上げた。
そこには大好きな彼の顔。怒っているような顔で、僕を見ていた。
「ご、ごめんなさい…」
「何謝ってんだ?」
何で謝ったんだろう?
「わ、分かんない…けど…」
だけど、君が怒っているから。
「別に怒ってねぇよ。怒ってたとしても、自分が悪くないと思うなら謝るな」
分かんないよ、そんなの。
もし君を怒らせたとしたら、それは僕のせいなんじゃないの?
そう思ったけれど言えなくて、僕はコクンと頷いた。


身体の震えはまだ止まらない。
「…寒いのか?」
「さ、寒くない…」
「俺が怖いか?」
「ち、違うの…」
身体の震えのせいなのか、どうしてもどもってしまう。
何だかみっともなくて、恥ずかしい。今、顔が真っ赤になっているかも。
「じゃ、触るからな」
大きな掌に腕を掴まれて、気がつけば彼の腕の中にいた。
暖かくて優しいぬくもりに、涙がぽろぽろと出てきた。
やっぱり寂しかったし、寒かったんだと思う。
だから、彼が来てくれて、抱き締めてくれてこんなに嬉しいんだ。
僕は優しい彼の胸で、子供みたいに泣いた。






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