Promised Land...遙

 

 

19.形 (2) - 2005年05月02日(月)


少し唐突過ぎただろうか…。
「変わったことって?」
「いや…だから…」
何と言って良いものだろう―――神条は自分の言葉に迷っていた。
上村に自分の心情を悟られる訳にはいかない。だが、上村の心情を悟らなければならない。
難しい選択だった。だが、
「あーっ!神条、疑ってるんでしょ!俺が浮気してないかって!!」
迷っている内に、上村は神条の心情に気がついてしまう。信じられないほどの早業だった。
もしかしたら不安に思う気持ちが、顔に表れているのかもしれない。そう思い、神条は自然と口元を手で覆った。
上村は怒っているらしく、不機嫌そうに頬を膨らませる。
「酷いっスよ、俺が浮気する訳ないじゃん。何でそう思うの?」
「だから…か、可愛くなったから…」
「そんなことないってーっ!久しぶりに会って、俺の髪が伸びたから新鮮に見えるだけだよ」
そうなんだろうか…。そう言われてみれば、そんな気がする。


上村はすっかり拗ねてしまって、神条から顔を逸らすと枕に顔を埋めた。
「…すまん。許してくれ」
久しぶりに会ったというのに、喧嘩はしたくない―――そう思い、神条はあっさりと引き下がる。
「俺を信用してくれない人なんて、知りませんよーだっ」
…おそらく、上村は本気で怒っている訳ではないのだ。ただ自分に下手で出て欲しいだけ。
それを分かっていて、神条は謝る。甘やかしていると思われてもいい。
愛しい恋人が望むのなら、何度でも謝ってやる。
「上村、こっちを向け」
「やだっ」
今だに拗ね続ける上村に神条は深い溜息を吐き、少し乱暴に上村の顔を自分の方に向ける。
大した抵抗はない。
「すまない」
「うー…」
その白い頬に触れ、そっと触れるだけの口付けをした。
上村が目を閉じるのを、しっかりと確認しながら。


「キスで思い出したっ」
唇が離れると、上村がムードの欠片もない大きな声を上げる。
「…何だ?」
「こないだね、男にキスされそーになった!ねえ、それって浮気?」
「何だと…。どこのどいつだ、言ってみろ!」
「え?えーと…、片山…」
「名前を聞いているんじゃない!聞いても、どうせ分からんだろう!いつどこで、どんな関係がある男にキスされたんだと聞いているんだ!」
今度は神条が怒る番である。
どこのどいつか分からないが…、事の次第によっては生かしておけない…。そんな恐ろしいことを考えながら、神条は尋ねた。
「専学で一緒のヤツなんだ。飲み会でね、ソイツ酔っ払っちゃって…って神条、キスされてないよ!未遂、未遂!」
未遂だろうが、事故だろうが、神条にとっては許せない行為である。
「ちゃんと死守したもん。“俺の唇は神条のもんだ”って」
「…そう言ったのか?」
こっくりと頷かれ、神条は額を押さえ再び溜息を吐いた。
それはそれで恥ずかしい。上村が通う専門学校には絶対に行けない―――そう思った。


「神条、俺、神条が思ってるほど弱くないよ。自分のこと、ちゃんと守れるよ」
確かにそれはその通りなんだろう。上村はれっきとした男なのだ。力もそれなりにある。
そして、何よりその口がある。ぎゃあぎゃあと騒がれれば、それだけで相手は萎えてしまうだろう。
それでも不安なのだ。いつか…寂しさに負けて、近くにいる人間に流されるままついていくのではないかと。
「神条、俺が寂しがりやだから誰彼構わずついてくと思ってるんでしょ。違うんだなぁ、これが。俺は寂しがりやだけど、神条以外はいらないの。神条じゃないんなら、他はいらないんだよ」
…とんでもない殺し文句だ。
神条は顔を赤らめつつ、それを見られたくなくて顔を背けた。
何故、こんなことを簡単に言ってしまえるんだろう…。
「溜まっても、ちゃんと一人で抜いてるよ。神条にされてる時のこと、考えながらしてる」
「分かった…、分かったからもういい…」
「ダメ、ちゃんと聞いて。してる最中はいいんだ、気持ち良いから。でもね、終わるといっつも泣いちゃうんだ。神条いないなぁって…、寂しくて空しくて泣いちゃうんだ」
知らなかった上村の本音。メールでは“寂しい”だの“会いたい”だの、一言も書いてなかったのに。
我慢しているんだろうか。我慢させているんだろうか。
「寂しいなら…」
上村はまるで神条の言葉を遮るように、唇を重ねる。
「いいの、寂しいの我慢するって言ったでしょ。あれ、ウソじゃないよ。ちゃんと守ってる。泣いて耐えられるんなら、俺は泣くよ。それでも耐えられない時は、ちゃんと神条に言うから」
「だが…」
「いいんだってば。その代わり、神条も俺のこと考えて、ちゃんとしてね?」
…言われなくても。
上村は天然なくせに、はっきりと自分の感情を表現するから、時々こっちが困ってしまう。
だが、そんな所が好きなのだ。自分にはないものだから。


「神条、折角会ってるんだから、もっかいしよー」
相変わらずはっきりとしている上村は、はっきりとそう告げ神条の首に腕を巻き付けた。
「…二回もしただろ」
「全っ然足りないから!気絶するくらいしてよ」
「……………」
言葉では答えない。
無言のまま、上村の首筋に顔を埋めた。
上村の願いを身体で答えるべく。




神条が目を覚ましたのは、朝方のことだった。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、上村の健やかな寝顔を照らしている。
…どうやら寝過ごしたらしい。理由は考えなくても分かる。
上村は“今晩は、外でご飯食べよーねー”と言っていたのに、お互い起きることが出来なかったようだ。
まあ、それでもいいかと思う。東京に戻るまで、あと数日はあるのだから。


神条はベッドの脇に置いてあった鞄の中を探った。
手探りで目的の物を探す。それは鞄の一番奥に確かに存在していた。
小さな四角い箱。中には、上村が以前から欲しがっていた物が入っている。
どんな風に渡そうか悩んだが、やはり面と向かっては渡せそうにない。
箱から小さな銀のリングを取り出す。シンプルな飾り気のない物だ。
上村の細い指に嵌めてやると、それはぴったりと収まった。勿論左手の薬指だ。
上村が欲しがっていたからでもあるし、虫除けの意味合いもある。
だが、大きな意味合いとしては、神条の意思表示だった。
必ず戻ってくるから、それまで待っていて欲しい―――そんな意味を込めて。
神条はそっと上村の薬指のリングに口付けた。
まるで誓いの口付けだな―――そんなことを思いながら。





*****


バカップルだな、オイ。
いつからそんなバカップルに?…いや、この二人は最初っからバカップルだった(笑)
とにかく、この二人は幸せになってくれないと困ります、遙が。
何だか生々しい表現があってすみません。大丈夫かしら。


そういえばサイトが出来たです。
今の所、Destinyのログ置き場と化していますが、その内ここの小説も持っていこうかと思っています。
こちらからどうぞ→Heavenly Flower



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