9.祈 (1) - 2005年03月06日(日) 叶うことがない願いを神様に祈ることは、無駄なことなんですか?―――神聖なるマリア像に祈りを捧げていた少年は、儚げにそう呟いた。 その日、俺がその教会を訪れたのはほんの気まぐれだった。 家の近くにあるその教会は建ってから数十年経過しており、外装も内装も手の施し様のないほど汚れている―――そう話で聞いた。 訪れる人も滅多にいないようだった。 神父だか牧師だかはいるらしいが、俺はその姿を見た事がない。 俺はキリスト教徒ではないし、神の存在すら信じたことがなかったから教会なんて訪れる機会はなかった。 それなのに、あの日は何故教会に行こうと思ったのだろう。それは今でも分からない。 ギィィィと不快な音を立てて、扉は開く。 噂に聞いたとおり、汚い教会だ―――そう思った。 壁や天井は黄ばんでいて、掃除をしても取れそうにない汚れがついている。 木製のベンチのような椅子は座れば、ガタガタと傾きそうだ。 これでは訪れる人が少ないのも無理はない。改装でもすれば良いだろうが、そんな金もないのだろう。 その中でマリア像だけが、この場所に似つかわしくないほど綺麗だった。 純白で慈愛の表情を浮かべるその像は、まさしく“処女のまま懐妊した女だな”と、そう思った。そんな御伽噺を信じている訳ではないけれど。 綺麗だとは思う。だが、それだけだ。 大した暇つぶしにもならず無駄な時間を過ごしたと思いながら、俺はマリア像に背を向ける。 その時、木製の椅子一番の後ろに人がいたに気がついた。 両手の指を絡ませ、瞳を閉じてマリア像に祈りを捧げる姿はとても神聖なものにと思えた。 純白のマリア像よりも、ずっと。 続 -
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