2005年03月09日(水) |
ただひとつ 切なく懐かしい場所 |
夫との思い出の場所だとか家族で食事に行ったお店とか そういうのには あれきり行っていない。
そこは 心の中で 触れるのが辛い 行けない場所 になってしまって 多分 もう二度と行かないだろうと思う。
ただ 一箇所だけ 例外と呼べる場所は一軒のラーメン屋だ。
そこには夫の入院時 付き添いに通っていた毎日帰りがけに 遅い昼食をとるために寄っていた。 どうしてそこに通うようになったかというと そのラーメン屋が食券を買うようになっていたからだ。
味うんぬんの好みももちろん若干はあったけど それ以上に わたしがこの店に毎日通いつめたのは ここだとほとんど口を利かずに注文できたからだ。
飲み込んだ言葉、疲れきった心、張り詰めた気持ち・・・ 背負ったもの抱え込んだものの大きさで鉛のように重たい身体を足を 引きずるようにしていつものカウンター席に座る。
カウンター席の隅に座ってぼんやりとラーメンが 出来上がるのを待つ。
人の気配がする空間。それでも必要以上に関わる必要の無い。
暖かなどんぶりが目の前に置かれてはじめて 小さく深い溜息を吐く。 湯気の温もりで少しだけ気持ちがほどける。
今 ここでだけは 笑っていなくてもいい。 空元気ださなくてもいい。
普通に疲れた顔をして ラーメンをすする。
知らない他の誰かに混じってぼんやりラーメンをすする。
毎日毎日毎日 まるで 他の選択肢をもたないみたいに それは病院へ行く必要がなくなるまで 続いた。
あの 時間。
あの かえり道の。
今でも時々 一人ふらっと あのラーメン屋へと行くことがある。 同じカウンターのあの席に座って ラーメンを食べる。
外食することなんてほとんど無くなってしまって ましてや一人でなんてもっとないのだけれど
このラーメン屋だけは 多分 ずっと。 ここだけは不思議と大丈夫。
ただひとつ 切なく懐かしい
仄かに暖かかった場所。
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