料理コンテンツのサイトを運営している友人がいる。
クックパッドや楽天レシピなど、一般の人がレシピを投稿できるサイトはいくらでもあって、「フライパンひとつで」「レンジでチンするだけ」「二人分ワンコイン」など手軽さをアピールしたレシピがあふれているが、彼女が公開しているものは「簡単」「時短」「経済的」とは対極にある。
「家庭でつくれる範囲内で、とことんおいしく」がコンセプトで、“ひと手間”を惜しまず、時間やお金もちょっぴり余分にかかるけれど、「でもそうしたら、こんなにおいしくなるんだよ」を伝えたいのだという。といっても、決しておいしさ至上主義ではなく、管理栄養士として「健康」の観点をおろそかにしないのも彼女のポリシーである。
サイトを見ると、彼女がひとつひとつのレシピをていねいに生みだしてきたことが伝わってくる。
休日に試作を重ね、レシピが完成したら、写真を選んだりメニュー紹介や手順の文章を考えたりといった作業に取りかかる。ひとつのレシピがweb上で公開されるまでにはかなりの労力とコストがかかるが、「おいしかった」と言ってもらえるのがうれしくてこつこつつづけていたら、先日サイト開設十周年を迎えたそうだ。
彼女は自分のレシピを毎日の献立で使ってもらおうとははなから思っていない。
「仕事が休みでちょっと手の込んだ料理をつくる余裕のある日や、家族においしいものを食べさせたいなあってときに活用してもらえたら」
だから、閲覧者や「つくったよ」報告の数は決して多くない。しかし、それらを増やすためにもう少し手を抜いてレシピを量産しようとか、コンセプトを曲げて日常使いできるメニューも掲載しようとは考えたことがないという。彼女がブレないのは、生みだしてきたレシピとそのサイトがそれだけ大切なものだからだろう。
その彼女が猛烈に怒っている。
彼女は最近、ある料理レシピサイトを眺めていて驚いた。自分が公開中のレシピとそっくりなものを見つけたからだ。タイトルも材料も手順もつくり方のポイントもまったく同じ。違っていたのは、メニュー紹介文の中のただ一箇所。
「なにが『母から受け継いだ思い出の味です』よ!あれはどうしても味が決まらなくて、一か月近くかかってやっとできたレシピだよ。勝手におふくろの味にしないでよ!」
そしてその投稿者のレシピ一覧を見て、愕然とした。十年かけてつくり溜めてきたレシピがことごとく盗用されていたのである。
その中には、百以上の「つくったよ」報告があるものもあった。自分のサイトの同じレシピに届いたそれの十倍以上であるのがまた腹立たしい。
「でね、ごていねいにひとつひとつに『リピありがとうございます。感謝♪』とか『100レポうれしい〜。感激です♡』とかコメントしてんの。さも自分のレシピみたいに」
と声を荒げる。
しかし彼女がもっとも許せないのは、つくりもせずにレシピを投稿していることだという。
「つくってないってなんでわかるん?」
「だって私の写真をそのまま使ってるんだよ。一度でもつくってたら、自分の写真を使うでしょう。おいしかったから出来心で……っていうんじゃないんだよ。一切の手間を省いて、人のレシピをコピペで盗み取るってどういう神経してるの」
彼女はより自分の料理に合う器を求めて、ついには陶芸を習いはじめた人である。そしていまでは自分がつくった皿や土鍋を撮影に使っている。料理を魅力的に伝えるために、ここまで凝る人はなかなかいないだろう。
まったく同じレシピが掲載されたふたつのページ。しかし、それが公開されるまでに注がれた情熱や費やされた時間は比較にならない。
これが本物とニセモノの違いだ。
そして、私はイヤーなことを思い出していた。私も同じ経験をしたことがある。
私の場合はレシピではない、サイトの文章だ。
(後編につづく)
【あとがき】 彼女がブレずに自分の大切にしていること(コンセプトやこだわり)を貫いているところに共感しています。彼女はレシピ、私は文章、とコンテンツは違いますが、サイト運営の姿勢が似ているなと思います。 バタバタと忙しい私は彼女のレシピを活用する機会がなかなかないのですが、ずっと応援しているのです。
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