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2007年12月07日(金) パンストの伝線、教えますか

先日ある場で、「街でパンストが伝線している人を見かけたら、教えるか否か」という話題が出た。
「知り合いでもないのにわざわざ教えない」という人と「気の毒だから教えてあげる」という人とに分かれたが、私はかなり迷った。
いや、私ならぜひとも教えてほしいのだ。ずっと気づかずその状態が多くの人の目に触れることを想像したら、よくぞ教えてくださったとその人に感謝する。
にもかかわらず自分が見かけたときはなぜ声をかけるかかけまいか悩むかというと、破れていることを知りながら放置している女性もときどきいるからである。
友人のそれを指摘したとき、そう慌てるでもなく「もう帰るだけだし」とか「このくらいならそんなに目立たないから」と返ってきて、へええと思ったことが何度かある。少々の伝線なら「ま、いいや」で済ませる女性がいることを知っていると、ひるんでしまうのだ。

けれどもその他の場合、たとえばスカートのファスナーが開いていたり裏表を逆に着ていたりに気づいたときは、知り合いであろうとなかろうとたいてい教える。つい何日か前もコートのベルトを引きずって歩いている人に声をかけたばかりだ。
おせっかいになる可能性ももちろんあるが、自分だったら「他人からそんなことを言われたら恥ずかしかろう」という気遣いから黙っていられるより、「この姿を人目にさらし続けるのは忍びない」と思って指摘してくれる人に親切心を感じるので、見て見ぬふりをすることができない。私はクリーニングのタグをはずし忘れていたことを一日の終わりに知るより、その瞬間は顔から火が出る思いをしてもかまわないから恥をかく時間は少しでも短くしたい。

しかしながら、むずかしいのは相手が若い女性の場合だ。
同僚の経験談である。駅の階段をのぼりながらあっと声をあげた。前を行く女の子のジーンズのお尻の部分に十センチほど切れ目が入っており、肌がのぞいていたのだ。
当の本人はまるで気づいていない様子。これは大変!と思った同僚は階段をのぼりきったところで彼女に近づき、「あの、ズボンが破れてます……」とささやいた。
が、一瞬焦った素振りを見せた女の子にその箇所を教えたとたん、キッと睨まれた。
「これは破れてるんじゃありませんっ」
同僚が「痴漢にでも切られたのか」と思ったその穴は、ファッションだったのである。
「だってお尻の下のところがぱっくり裂けてたんやで!中身が丸見えやったんやで!」
この話を聞いて、私は新聞の投稿川柳欄で読んだ男子高校生の作品を思い出した。
「バアチャンが Gパンの穴 縫うてもた」
最近の若い人のオシャレは私にはよくわからないので、「んん?」と思ってもスルーすることにしている。

そうそう、それともうひとつ私が声をかけられないケースがある。男性の社会の窓が開いているのを発見したときだ。
女性から指摘された場合でも、「ああ、ありがたい。これ以上恥をかかずに済んだ」と思ってもらえるんだろうか。

【あとがき】
もっとも、若者のファッションが年長者に理解できないのは最近のことに限ったことではないのでしょうけど。ポロシャツの襟を立てて着るのが流行った頃、私と同世代の知人は出かけようとして、母親に「あらあら」と真顔で襟を寝かされたそうです。