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2007年11月16日(金) いまどきの名づけ

職場の休憩室でテレビを見ていたら、ある番組で「いまどきの子どもの名前」について取り上げていた。
最近の傾向として、名前からは男女の区別がつかなくなっていること、ドラマやアニメの登場人物から名前をとる親が増えていること、女の子の人気の名前上位100の中に「子」がつくのはたった二つしかないことなどが挙げられていたが、とりわけ私がへええ!と思ったのは当て字ならぬ“当て意味”の命名である。
その例としてフリップに並ぶ名前を見て、唖然。「宇宙」「星輝」「原子」「蒼海」「音奏」を、「コスモくん」「キラリくん」「アトムくん」「マリンちゃん」「メロディちゃん」と読める人がはたしてどれだけいるんだろうか。
名づけに使える漢字は法律で決められているが、その読み方についての規定はない。そのため、親が「こう書いてこう読むんだ」と主張すれば役所は受理してくれるらしい。しかし、これはもう連想ゲームの世界である。

いや、こんなふうにあらためて教えられなくても、「いまどきの名前にはついていけんなあ」と思うことは少なくない。先日年賀状の整理をし、子持ちの友人知人から届いたものを眺めながら、私はそれをつくづく思った。
ストレートに読めないのは当たり前。そのくらいならご愛嬌だが、パソコンでは手書き入力でないと呼び出せない漢字を使っている場合もあって、こういうのは周囲だけでなく本人にとってもかなりの不都合があるのではないかと心配になってしまう。
というのは、「人に名前を正確に読んでもらえない、書いてもらえない、聞き取ってもらえない」の不便さは私もさんざん味わってきたからだ。
私の場合は下の名ではなく、姓が難解だった。学校の先生にさえ初見ではまともに読まれず、書類の漢字が間違っていることなど日常茶飯事。電話では何度も聞き返される。それで自分の名前を嫌いになったりすることはなかったものの、「面倒くさいなあ」とはよく思った。
私のように苗字であればあきらめもつくだろうが、親の趣味で奇抜な名前をつけられた子どもはどのように感じるのだろう。

以前、雑誌で息子に「茶々丸(ちゃちゃまる)」と名づけた女性の投稿を読んだ。
「ありふれていないし、一発で名前を覚えてもらえるのでとても気に入っている」という内容だったのだが、私は十年後、二十年後のことを考えたんだろうかと思わずにいられなかった。いまは可愛い盛りのやんちゃ坊主もそのうち思春期を迎え、社会に出て働くようにもなる。自己紹介をするたび、名刺を差し出すたび相手に目を丸くされ、ときには笑われ、自分の知らないところで“珍名サン”と話題にされるなんて、私だったらご免だ。
先述の番組には『銀河鉄道999』の大ファンである両親に「メーテル」と名づけられた女性が登場し、自分の名前が嫌いだと言っていた。メーテルといえば誰もが知る美女キャラ。名乗ると必ず失笑され、どうしてこんな思いをしなくてはならないのかとずっと悩んできたそうだ。
「私がなんか悪いことした?と親に言いたい」
これを聞いて、私は高校時代の友人を思い出した。彼女もまた自分の「みき」という名前をとても嫌っていた。音は平凡なのだが、漢字が「美姫」。
「人に字を説明せなあかんときが一番恥ずかしい。この顔で『美しい姫』はないやろう……」
安藤美姫さんくらいのレベルなら「名前負け」の四文字が頭をよぎることもないのだろうが、月並みな容姿の女性にはかなりの重荷になるようだ。
ちなみに、メーテルさんは「芽絵輝」とかそんなふうな字だった(珍しすぎて忘れてしまった)。彼女には申し訳ないが、「夜露死苦」のノリと変わらない。
同僚の「こういうのってセンスの違いというより知性の問題って気がする」に思わず頷いた。

名前は親から子への最初のプレゼント。はりきって考えるのは当然で、あれこれ思いを込めたくなる気持ちはわかるが、親の自己満足で子どもに無用の苦労をさせることのないようにはしてやらないとなあ……。


人様の名づけに口をはさむなんて余計なお世話以外の何物でもないのだけれど、ここまで書いたついでに言ってしまうと、外国人のような名前を見かけるとなんだかとてももったいない気がしてしまう私だ。
知り合いの中にも、将来留学や海外赴任をするかもしれないし……とわが子に「マーク(真亜久)」「メアリ(芽亜莉)」的な名前をつけた人がいるが、せっかく日本人に生まれ、すてきな名前もいくらでもあるのになあ!とつい思う。
だって、インターナショナルな名前であるかないかでそのときいったいどれほどの有利、不利が出るというのだろう?
結局は彼、彼女次第なのである。その人がそれだけの人物であるならば、「スズキイチロウ」だって世界に通用するのだから。

「靴箱に 源氏名並ぶ 幼稚園」
『週刊文春』の「川柳のらりくらり」に掲載された一句である。下駄箱の前で目を白黒させている投稿者(七十五歳男性)の姿が浮かぶようだ。

【あとがき】
最近、中国で子どもに「@」の入った名前をつけようとした親が役所に却下されたっていうニュースが流れてましたね。個性的な名前を、という傾向は日本だけのものではなさそうですね。
「名前」というのは自分と他人とを識別してもらうためのものだから、人に正確に読んだり書いたりしてもらえないと困るのは誰よりも本人。親が自分たちの好みや願いを込めるのもいいけど、そのあたりのことは考えてやらないとね。