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2007年10月26日(金) 友人から「お金を貸してほしい」と頼まれたら。

先日テレビで、未唯さんがピンクレディー解散後、事務所の経営をまかせていた男性が作った三億円の借金を背負わされ、大変な苦労をしたと語っているのを見た。返済のためにコンサートを数こなさなくてはならないが衣装代を払えないため、町で購入した安いドレスに自分でスパンコールを縫いつけ、それらしく見えるよう加工していたそうだ。
私の親戚にも夫が知人の連帯保証人になったばかりに多額の借金を抱えてしまった夫婦がいる。妻が「あれがなければ、家一軒建ってたわ」といまいましそうに言うと、夫がぼやく。
「なにも俺がええ目見てこしらえた借金やないやないか……」
「そやから余計に腹立つんやないの!」
この妻の叫びに私は深く頷いてしまう。自分たちはなにひとついい思いをしたわけでないのに、お金だけ払わされる、これほど馬鹿げたことがあるだろうか。

借金って怖いな……とつぶやきながら、私は大学時代に付き合っていた三つ年上の男性のことを思い出した。
何年か前に同窓会で十数年ぶりに再会、近況を訊いたら、億単位の借金を抱えているというからびっくり。
彼の卒業、就職を機に私たちは別れたのだが、その後彼は自分の父親の弟、つまり叔父夫婦のところに養子に入ったという。夫婦には子どもがなく、彼らがしていた商売を継ぐ人間が必要だったのだ。
バブルの真っ只中に就職した大手企業を辞め、叔父夫婦の会社に入った。というのにそれからたった数年で会社が倒産、さらに信じられないことには叔父夫婦がドロンしてしまったのである。
経済的に不安定になったことで妻と揉めることが多くなり、現在は離婚調停中。あの人たちに人生を狂わされた、と彼は吐き捨てるように言った。

他人などではない、親戚である。それどころか養子縁組で「親子」になった間柄なのだ。会社が潰れるとも思っていなかったろうが、そんな人たちに裏切られるとはなおさら彼は予想していなかっただろう。
こういう不運はドラマの中だけの話ではないのだ。


半年ほど前、年上の友人から「友達にお金を貸してほしいと頼まれた」と打ち明けられた。その女性(A子さん)とは二十年来の付き合いで、親友と言える存在だという。
金額は六十万円。私にとってはめまいがしそうな額だが、彼女は「用意できない額じゃないから余計に悩んでいる」と言う。
「もし他の人やったらたとえ一万だって貸さへんよ。けど、A子はただの友達と違うねん。返してくれへんかもしれんとか私との付き合いはお金目当てなんじゃ?とか、そんな心配はまったくしてない」
そう断言する友人に、そこまで気持ちが固まっているのならなにを悩んでいるの?と訊いたところ、彼女が突然お金が入り用になった訳を説明してくれないことが引っかかっているという。「家のことで必要になった」「親には頼めない」以上のことは話そうとしない。
A子さんはごくふつうの金銭感覚と常識の持ち主であり、浪費で借金を作ったとは考えられない。が、ちらと頭をよぎったのは彼女の夫のこと。大のパチンコ好きで、休日は朝から店に入り浸りだとか小遣いはすべてそれにつぎ込んでいるだとかいう愚痴を何度も聞いたことがあった。もしかしてそれで……?
その日は心を鬼にして「ちゃんと事情を話してくれないと返事できない」と言い、別れたという。
「ご主人がリストラされたとか家族が病気になったとか、そういうことでお金が必要になったんやったら話してくれるはずやろ。それができへんってことはまともな理由じゃないってことなんかな……。もしそういう借金やったとしたら、貸すことはほんまの意味で彼女を助けることになるんやろかって、そこんところが気になって」

私はたとえどんな仲であっても、どんな事情があっても、人とのお金の貸し借りはないほうがいいと思っている。誰かに相談されたら、やめたほうがいいと答える。
けれども、そういう私にも「もしお金に困っていることを知ったら、頼まれずとも力になりたいと思うだろう」と思い浮かべる人がやはり何人かはいるのだ。
リスクの大きさは貸す相手が身内であるか、他人であるかでは測れないということは、大学時代の彼の例を見てもわかる。血の繋がった親兄弟よりよほど強い絆で結ばれた友人関係もある。友人にとってはA子さんがそういう存在なのだろう。

迷いがあるとは言いつつも彼女の気持ちはほとんど決まっているようだったから、私は三つのことだけを伝えた。
お金が返ってこないときのことを想像してみて。そのとき自分は「裏切られた」と感じるだろう、と思うのであれば貸すべきでない。「それほど彼女は困窮しているんだ(だから返すに返せないのだ)」としか思わないくらい信頼している相手にしか貸してはいけないということ。
他人行儀に思えても、借用書を作り期限を設け、返済を約束させること。
そして、お金は会って直接渡すこと。振込みはだめだよ。

お金を貸すならあげるつもりで、とはよく言われることだが、現実にあげることになってしまったら、ほとんどの場合友情もセットで失う。彼女がそうならないことを願っている。

【あとがき】
人にお金を貸して返ってこなかったという話はちょこちょこ聞きます。一番驚いたのは、母も昔そういう経験をしたことがあるということ。近所の奥さんに「自営業がうまく行かなくて困っている、3万円貸してほしい」と頼まれ、その家には小さな子どももいたので気の毒になって貸した。そうしたら、しばらくしてこっそり引越してしまっていたという……。
近所の人だったし、まさか返ってこないなんて思っていなかったらしくて。頼まれなくても助けてあげたいと思える人にしかお金は貸してはいけませんね。