テレビをつけたら、ある情報番組で「女性がもっとも『別れたい』と思う男性の行動は?」というテーマで盛り上がっていた。巷の女性にアンケートした結果を当てるというものだ。選択肢は次の通り。
a.デートによく遅刻する b.間違って元カノの名前で呼ぶ c.予約しないでレストランに行って満席、など段取りが悪い d.パンクなどのトラブル時にオロオロする
|
どれかしらねえ……と迷っている間もなく明かされた正解は、「d」。
「やっぱり男性には堂々としていてほしいですよねー」という女性ゲストのコメントを聞きながら、私はふと同僚との会話を思い出した。
この夏私は長期休暇が取れなかったので、夫は恒例のお盆の旅行にひとりで出かけた。「レンタカーでヨーロッパをあちこち回ってきたみたい。妻へのお土産はプレッツェル一個だったけどさ」という話を会社の昼休みにしたところ、「いいなあ、そういうダンナさん!」と同僚が声をあげた。
「えー、パン一個しか買ってきてくれないダンナがうらやましいかあ?」
「違う、違う。ひとりで海外に行ける人、っていうところがだよ」
彼女の新婚旅行はハワイだったという。本当はそういう“いかにもハネムーン”なところではなくもっと別のところに行きたかったのであるが、夫に「どこにそんな金がある」と却下され、渋々彼が見つけてきたワイキキステイ七日間のツアーに申し込んだ。
しかしながら、「なにが悲しくてハワイ……」という気持ちは飛行機を降りた瞬間に吹き飛んだ。日本ではもちろん、これまでに行った海外でも見たことがないコバルトブルーの海に美しい砂浜。
「バカにしてたけど、ハワイってこんな素敵なところだったのね。来てよかった!」
しかし、旅行中ひとつだけうんざりすることがあった。夫が片時も自分から離れようとしないことである。
「ちょっとそこのショッピングセンターに行くってだけでも必ずくっついてくるの。退屈だろうからその辺ぶらぶらしてれば?とか何時間か後に待ち合わせしようか?とか言っても、『いや、一緒に行く』って。日本では私の買い物についてきたことなんかいっぺんもないのに」
「レストランとかホテルとかで店員さんになにかを訊く段になると、さりげなくその場を離れて全部私に言わせるの。値札がついてない物見て『これいくら?』って私に言うから、訊いてみなよって言ったら『じゃあいいや』だって」
外国とはいえワイキキはほとんどどこでも日本語が通じるし、日本人観光客もわんさかいる。たとえ迷子になっても本当に困った事態に陥ることなどないのだ。それなのに、夫ときたら単独行動をまったくしようとしない。
「さすがにエステにはついてこられなくて私ひとりで行ったんだけど、ホテルに戻ったら夫はテレビ見てたの。半日どこにも行かなかったらしくて、ハワイまで来てなにしてるんだってあきれるやら腹が立つやら」
そして、そういう姿を見たくないので夫とは海外に行く気がしないのだ、と彼女は言った。
「そんなふうに言っちゃ酷だよぉ。海外旅行の経験があんまりなかったら、男の人でもやっぱり不安なんじゃないの……」
と一応フォローは入れたものの、彼女が「萎えた」のはとてもよくわかると思った。
現実には、男性であっても「海外はツアーでないと無理」とか「ひとり旅は自信がない」という人のほうが多いに違いない。見知らぬ土地でひとりきりを心細く思うのに男も女もないということもわかっている。
が、そうは言っても、「言葉が通じない」とおずおずモジモジしている男性と「んなもん、身振り手振りでなんとでもなる!」と言ってのける男性を比べたら、後者のほうが素敵に決まっている。そういう度胸のあるなしは海外に行ったときだけでなく日常生活のあらゆる場面で顔を出すからだ。
「英語が下手だから恥ずかしい」と外国人の中で萎縮してしまう人が、会議の席で堂々と発言している姿はちょっと想像できない。
もし自分の夫が彼女の夫のようなタイプだったら、私もきっと「情けない」と感じただろう。
そんなわけで冒頭のアンケートに話を戻すと、私自身の答えも「d」。
別れたくまではならないと思うが、こちらが「なあに、それしきのこと」と思うようなことに好きな男性がパニックになったりヒステリーを起こしたりする様は、彼の小ささを見せつけられるようで少しばかりショックである。
【あとがき】 私が幻滅する男性の行動はというと、「タクシーの運転手や店の従業員に横柄な口をきく」「デートで食事に行った店で、奥のソファ席にさっと座ってしまう」「運転中、渋滞や信号待ちに出くわすとぶつくさ文句を言う」とかですね。礼儀やマナー知らず、空気が読めない人にはゲンナリしちゃいます。 |