先日、友人が家に泊まりに来たときのこと。
夜の十時を過ぎた頃、彼女の携帯が鳴った。ずいぶん長く切れないので、出たら?と声をかけたのであるが、いいのいいのと言って誰からの着信かも確かめようとしない。
三十分ほどしてまた鳴ったので、急ぎの用なのかもよ?ともう一度促したら、彼女は「ちょっと前に知り合いから男の人を紹介されて、その人が毎日みたいにかけてくるんよ」と苦笑して言った。
その表情から察するに、その気がないらしい。どこがだめなのかと訊いたところ、
「どこがっていうか、タイプじゃないんよねえ……。背の高い人って好きじゃない」
と返ってきたから驚いた。「背が高くないと嫌」という女性はめずらしくないが、「背が高いのは嫌」という人には初めて会った。
そりゃあ身長が二メートルもあったら「ちょっと……」となるのはわかるが、その人は百八十くらいというから、なにがNGなのかさっぱりわからない。むしろ理想的じゃないのと私なんかは思うのだが、彼女はむかしから自分と目線の位置が変わらない百七十センチ以内の男性が好みなのだそうだ。
「そうそう、外見の好みってほんと人それぞれなんだよねえ……」
と頷きつつ思い出したのは別の友人のことである。
彼女は私の友人の中でも一、二を争うきれいどころなのだが、いまだに独身、恋人も長らくいない。どうしてかというと、彼女には「これだけは譲れない」外見の条件というのがあるのだが、それをクリアしている人があまりいないからだ。
彼女とカップリングパーティーに参加したことがある。美人の友人とそんな場所に行くなんて無謀だとお思いでしょう?それができたのは、彼女とはいいなと思う男性がかぶる心配がなかったから。
彼女は巨漢の男性にしか魅力を感じない、いわゆる「デブ専」なのだ。
私は大柄な人はOKだが、巨漢まで行くと困ってしまう。逆に、彼女は大柄程度ではぜんぜんだめで、理想のルックスはホンジャマカの石塚さん。そんなふたりが男性を取り合いになる(私の敗北は必至)可能性はまずないだろう。
予想通り、彼女は私がひと目で「キャッ、素敵!」と心の鐘を鳴らした男の子のことを「軟弱そう」と一蹴し、小山のような体型の男性を選んだ。中間発表で彼女のところには何人もの男性からオファーがあったが、中肉の人ばかりであったため目もくれなかった。
森高千里にそっくりの容姿を持つ彼女であるから、その男性とはもちろんカップルになった。しかし、デートは一度きりで終わってしまった。
彼女にとって外見の必須条件は「大男」であるが、内面の必須条件が「切れ者」なのだ。そうは見えないのに実は頭の回転がすごく早い、仕事ができる、というギャップがたまらないらしいのだが、その両方を満たしている人はなかなかいない。
「太っていてもべつにかまわない」なら十分理解できるのだが、「男は太ってなきゃあね」となると私にはよくわからない。
しかし、こういう女性はときどきいる。脚本家の内館牧子さんの理想は相撲取りで、大男にしか男の色気を感じないと言っているし、作家の岩井志麻子さんもデブ専として有名だ。
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林真理子さんのエッセイを読んでいたら、「フケ専」という言葉が出てきた。なんのことかと思ったら、老けた人、つまりオジサン好みの女性のことらしい。
そういう人がいるかと思えば、私の友人のひとりは学生時代から「年下キラー」の異名をとり、「オトコは年下に限る」と言う。何年か前に結婚したが、新郎は「大学出たて!?」と見紛うごとく若い男の子でびっくりしたっけ。世の中には本当にいろいろな趣味があるものだ。
私には「専」がつくほどの必須条件はないけれど、過去に好きになった人を思い浮かべてみると、顔の好みはソースではなくショーユなのだということがよくわかる。
ちなみに、さきほど書いたパーティーでゲットした(死語ですか)爽やかクンが、わが夫であります。