過去ログ一覧前回次回


2006年11月08日(水) ネタばらしの罪

映画を観に行った同僚が激怒している。内容がつまらなかったのね?と話を聞いたら、そうではなかった。
チケットを買うために並んでいたら、すぐ前にいた若い男性が『フラガール』のポスターを見て、「これ、おもしろいんかな?」と隣の恋人に話しかけた。すると彼女、「こないだ見たよ。むっちゃよかった、感動した!」と言ったかと思うと、どの場面でぐっときたか、誰のどんなセリフで泣いたかをペラペラ話し始めたのである。
同僚は悲鳴をあげそうになった。それはまさにこれから彼女が観ようとしている映画だったから。咳払いをしたり睨みつけたりしてみたが、カップルはまるで気づかない。列を離れようかとも思ったが、しかしいまから並び直したのでは次の回はあきらめなくてはならない……。
女性の解説は延々つづいた。結局、同僚は聞いてしまったストーリーの答え合わせをするように観ることになってしまったそうだ。

私がその場に居合わせたら、「やめてください」と言っていたと思う。悪気はなくてもこういう鈍感さは許せない。
家で日曜洋画劇場なんかを観ながら私が興奮したり感動したりしていると、横から夫が「でもこの人、最後は死んじゃうんだよ」とか「犯人は誰それだよ」とか言うことがあり、そのたび私は怒り狂う。だから彼女の腹立ちと無念は痛いほどわかった。

しかし、私がさらに嫌いなのがスポーツの試合の結果をテレビで見る前に知らされることである。
映画は事前にあらすじを知ってしまっても俳優の演技や衣装、音楽を確かめるという楽しみは残る。が、スポーツ鑑賞の醍醐味はなんといっても「応援」だ。録画放送であってもリアルタイムで見ているつもりで声援を送る、手に汗握る。選手がどんなプレイをするかにも興味はあるが、勝敗を聞いてしまったら見る気が失せるくらいテンションががた落ちするのだ。
先日アメリカで行われたフィギュアスケートのグランプリシリーズ。これを夜のテレビで観るのを私は一日楽しみにしていたのだが、不注意から放送前に結果を知ることになってしまい、本当に悔しかった。
こういうときはいつも私は招かざる情報に出くわさぬようテレビ観戦を終えるまでできるだけパソコンには近づかないようにするのだが、その日はうっかりしていた。メールのチェックをしようとYahoo! JAPANにアクセスしたところ、放送の何時間も前なのにもうトピックスの欄に「スケートアメリカ、安藤美姫優勝」と出ていたのだ。

「地団駄踏みたくなければ、放送終了までネットはしないが吉」
これをあらためて思う出来事がつい数日前にもあった。
いま日本でバレーボールの世界選手権「2006世界バレー」が開催されているのであるが、先週末の日韓戦はそりゃあおもしろかった。二次ラウンドに進めるかどうかがかかった試合で、しかも韓国は宿命のライバルである。序盤からの激しい攻防、第一セットは日本が先取したが第二セットは奪い返され……と観ている者の胃がきしむような熱戦だった。
さて気迫で粘り勝ちした直後、私はmixiを開いた。「全日本女子バレーを応援しよう!」というコミュニティに参加しており、韓国戦関連のトピックがさぞかし盛り上がっているだろうと思ったのだ。
そうしたら。掲示板は別の意味で熱くなっていた。
「ワンジョウがブロック止められたー!」
「シンさん、凄いぞ!!二段をよく決めたっ」
「連続ポイントだああ〜〜〜〜(≧∇≦)!!」
と試合開始から掲示板は実況中継状態。こんなふうにバレー好きの人たちとオンラインでつながりながら応援するのも楽しいかもね、と思いながら読み進めたところ……。第二セット、韓国にリードされて悲痛なコメントが連なっているところに突然、「この試合、勝ちましたよ」という書き込みが。
参加者のひとりが、どこかで拾ってきた「日本が韓国を下して二次ラウンド進出を決めた」という新着ネットニュースの文面を貼りつけていたのだ。

その後の展開は言うまでもない。
「みんなが応援してるってわかってて、どうしてそんなこと書くんですか」
「途中で結果を言うなんて最低です。興奮を返してください!」
しかし、書き込んだ男性は謝るどころか怒りだした。
「非難されるようなことだとは思ってません。なんでこっちが悪者になるんだ、親切心で結果報告してるのに」
「結果を知りたくないなら、テレビだけ見てりゃいいでしょうが。録画放送だと知っててノコノコ公の掲示板に顔出しておいて、ネタばれされないことが当然の権利だと思わないでください」

たとえば、電車の中で近くにいた人が「今日のバレー、日本が勝ったんだってね」と話し始めた……という不運はあきらめるしかない。「あんた、なんで結果をばらすんだ!家に帰ってテレビを楽しみにしてる人間もいるのに」と責めることはできない。
けれども、該当のトピックは“テレビを見ながらみんなと韓国戦を応援したい人たち”が集まる場所だった。それナイスレシーブだ、サーブミスだと一喜一憂しているところに「その試合、勝ったんですよ。それ、録画ですから」はあんまりだ。
「結果を書いてはいけないとは知りませんでした」なんて、ここまで空気を読めない……というか、人の気持ちがわからない人もめずらしい。

しかしもうひとつ難を挙げるなら、試合中にその心無い書き込みを目にしてしまった人たちは放送終了までは怒りを堪え、騒ぎ立てるべきではなかった。すぐさま抗議のコメントを投稿することでトピックは上げられつづけ、自分たちと同じ“被害者”を増やすという結果を招いてしまったのだから。


想像力をほんのちょっと働かせれば、いまここで自分があらすじや勝敗を披露したら、これからその作品や試合を観ようとしている人たちにどれほどのダメージを与えるかわかるはず。誰も知らない情報をいち早く手に入れたとき、人に話して驚かせたくなる気持ちはわかるが、その衝動を抑えられないのは幼稚である。
公開中の映画、後にテレビ放送を控えたスポーツの試合、出版されたばかりの小説などについて日記に書くときは、冒頭に「ネタばれあり」の注意書きが必要だ。うっかり加害者にならぬよう私も気をつけなくては。