みなさま、しばらくぶりです。ゴールデンウィークをいかがお過ごしでしたか?
いま会社からこの日記をお読みくださっている方の大半は「だりーよお、仕事やだー」な現実逃避な気分ではないかと思います。
そんなあなたの心をときほぐすべく、今日は私が連休中に台湾で経験した「マッサージ」の話をお届けします。
「『鼎泰豊』の小籠包を食べる」こと以外、これという目的なく台湾に出かけた私と夫。
駅でもらったタウンガイドに「日本でも大人気の足ツボマッサージの本場は台湾。ぜひお試しを」とあるのを見て、じゃあ行ってみようかという話になった。
ずらりと並んだマッサージ店の広告の中から私たちが選んだのは、「明るく清潔。初めての方もお一人様も安心してお入りいただけます」という謳い文句のところ。
しかし訪ねてみたら、平日の午後という時間帯のせいか客は一人だけで、店内は薄暗くて陰気くさい感じ。白衣を着た男性マッサージ師が何人か暇そうにしていたけれど、「いらっしゃいませ」を言うでもなく、日本だったらすぐさま「やっぱりいいです」と踵を返すであろう雰囲気の店だ。
しかし、私はそこでしてもらうことにした。ここは台湾。明るさにしろ清潔さにしろ店員の愛想にしろ、日本と同じレベルを求めちゃいかんのだ。
片言の日本語で六十分間の全身マッサージを勧められる。たしかに九百台湾元(三千円ちょっと)というのはとても安い。日本でしたら倍はするだろう。私は喜んでそれをお願いした。
足湯の後、私と夫はそれぞれの個室に案内された。そこで上下に分かれた浴衣のようなものに着替えるよう言われたのであるが、私は少し迷った。
「ブラはどうしたらいいんだろ」
足裏や肩のマッサージは何度も経験があるが、全身は初めて。着けたままだとやっぱり邪魔かしら。でもマッサージ師さんは若い男性だしな……。
しばらく悩み、結局着けたままにすることに。そして、眠る気満々だった私は「おやすみなさーい」と冗談を言い、顔の部分がくり抜かれたベッドにうつぶせになった。
……のであるが。眠るどころではとてもなかった。
首から肩、背中から腰、と押してきた手がさらに下におりたとき、
「ふうん、女性客の場合はお尻は避けるのかと思ったけど、ちゃんとするんだ。そりゃあそうか、お医者さんと同じようなものだもんね」
なんて思ったのであるが、私にそんな余裕があったのは最初の十五分だけ。というのもその後、下半身に集中砲火を浴びたのだ。
肩や背中は浴衣ごしの指圧だったのだが、足はショートパンツ状のものをまくりあげられ、下着はハイレグにされ。その状態で足を持ち上げられたり、押し開かれたり。太腿やふくらはぎだけでなく内腿の微妙なところまで遠慮なくなで回される。私は思わず「まさぐる」という言葉を思い浮かべた。
そして、ふと思った。
「まさか、いたずらされてるんじゃないよね……」
だってなんというか、ものすごく卑猥な感じなのだ。上半身は「押す、揉む、ほぐす」だったのに、下半身はひたすら「なでる、さする」。しかもきわどいところを執拗に、なのだ。
「前に全身エステをしてもらったとき、女性のエステティシャンでもこんなぎりぎりのところまでは触れなかったよ。あ、でもあれはエステだからマッサージはまた違うのかな。たとえば足の付け根にツボが集中してるとか?でもいくらツボがあっても女性にここまでするかな……」
そんなことが頭の中をぐるぐる回ったが、全身マッサージを他で経験したことがないので判断がつかない。それに、夫と一緒にやってきた客におかしなことをするはずがない、という思いもある。
あられもない格好をさせられながら、
「全身マッサージというのはこういうハードなものだから、初めてのときはみな驚くのかもしれない」
とつぶやいてみた。
それでも、「そのうち下着の中に指が入ってくるんじゃないか」と本気で考えた。もしそんな展開になったら日記には書けないわ……。あ、そういう問題じゃないか。
というようなことを思っていたら、時間がきた。
着替えて外に出ると、夫が退屈そうに携帯をいじりながら待っていた。時計を見ると二十分オーバー。「得した」と思ってもよいものなのかどうなのかよくわからない。
といって、夫にどんなことをされたのかと聞く気にはならない。「服の上から押されただけだよ」なんて返ってきたらどうしたらいいの。それに、妻が受けたマッサージの内容を知って機嫌を損ねられても困る。
私ははずかしくてマッサージ師の男性の顔をまともに見ることができぬまま、店を出た。
* * * * *
全身マッサージがああいうものなのだとわかったのは、実はついさきほどである。
日記の下書きを終えた後、なにげなく読んでいた台湾観光案内サイトにマッサージについての記述があった。その中にこんな内容の一文が。
「足裏はお勧めですが、全身は避けた方がいいかもしれません、とくに女性は。日本人だとたぶんセクハラだと感じると思います。そうではないのですが」
んまああ!ということは、あのエロティックな指使いはちゃんとしたものだったのね。途中、ベッドに横たわった男性の体の上に載せられ、「こんなんぜったい変だよ〜」とおたおたしていた私っていったい……。
でもさ、タオルで視界を遮られ、両手を包まれて自由を奪われていたら、そりゃあ想像力もあらぬ方向に働きますよ。
……なんて言い訳もはずかしい。
疑ってごめんなさい。当方、三十四の小娘なもので。
【おまけ】
全身マッサージの際のブラジャーは外すべきものだそうです。ある整体院のサイトに「背中を施術する際、ホックで肌を傷つけることがありますし、押せる場所も極端に減ってしまうため着用はご遠慮下さい」とありました。言われてみればそうですね。