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2006年01月20日(金) 恋人の過去を知りたいですか

「カレシの元カノの元カレを、知っていますか。」
電車の中吊りのこんな文句が目に留まった。自分の知らないところで知らない誰かとつながっている、エイズ検査を受けましょうと呼びかける公共広告機構の広告であるが、そのキャッチコピーを読み、私は間髪入れず突っ込んだ。
「知ってるわけないやん!」
が、ためしに過去の恋人を一人ずつ思い浮かべ人間関係を遡ってみたところ、あにはからんや二人の男性の「元カノの元カレ」が判明したではないか。
出会いの場が学校だったり職場だったりする場合はけっこうな確率で“ゴール”まで辿り着けるようである。

* * * * *

で、今日は「あなたは恋人の過去を知っていますか」という話。
といっても、「エイズは他人事ではないんですよ」とか「みなさん、コンドームをつけましょうね」ということが言いたいのではない。新しい恋人ができたとき、相手がどんな恋をしてきたか気になるか?という文字通りの意味である。
昼休みに同僚五人に質問したところ、「かなり気になる」が三人、「気にならないといったら嘘になる」が二人という結果。
彼女たちが彼にそれを尋ねる理由として挙げたのは、「どういうタイプが好きなのかとか、彼女たちとはどうしてだめになったのかを今後の参考にする」「過去を含めた彼のすべてを好きになりたい」「何人くらいと付き合ったのか興味がある」というものだったのだが、相手の写真が見たいと言う人までいたので私はすっかり驚いてしまった。

だってそんなことを知ってどうするんだ?
彼が過去の恋人に未練を残しているとかまだつながっている気配があるとかいうことなら探りを入れなくてはならないかもしれないが、そうでないのなら知ることにメリットがあるとは思えない。それによってなにかが生まれるとしたら、嫉妬心や対抗意識くらいのものではないのだろうか。
相手に離婚歴がある場合は別れに至った理由を知っておきたいと私も思う。しかし、恋人関係はその大半が遅かれ早かれ解消される運命にあるのだから、破局の原因を聞いたところでなんの意味もない気がする。出会う前の彼を知りたいということであるなら、私だったら元恋人との日々よりも子どもの頃の話を聞きたい。
相手がどんな恋愛観を持っているかということは彼を好きになる過程で自然に伝わってきているはずだから、私にとってはあらためて経験を訊いて確かめるまでもないことだ。

そんなわけで、私は彼がどんな女性と付き合ってきたのかについてはほとんど興味がない。だから私が「元カノ」を知っているのは、出会った時点で彼が他の女性と付き合っていて、それがたまたま顔見知りだった……というケースだけ。
過去と現在は地続きではあるが、過去は現在の後方にしかない。さまざまな経験をしてきた結果として現在の彼があり、その彼が選んだのが「私」なのである。そう思えば、過去の恋人がどんなだったかなんてまるで気にならないし、知っておく必要があるとも思えない。人は恋愛によってのみ成長するわけではないのだし。
夫とは恋人時代に音信不通になっていた期間がある。彼がやり直したいと言ってきたとき、私は「どうしていなくなったのか」「十ヶ月間どうしていたのか」といったことは尋ねなかった。
他の誰かと付き合っていたのかもしれないし、そうでないのかもしれない。しかし、一度も連れて来たことのない私の実家まではるばるやってきた(連絡が途絶えていた間に私はマンションを引き払い、実家に戻っていた)という真実以外に“再出発”に必要なものがあるだろうか。


私は自分を選んでくれた男性の「過去の恋人」は気にならない。でも、自分を選んでくれない男性、つまり片思いの相手の「いまの恋人」は気にかかる。
どんな人なんだろう、どこに惹かれたんだろう、彼が選んだのだから魅力的な女性に違いない。綺麗な人なのか、それとも可愛いタイプ?料理は上手なんだろうか、彼をなんと呼んでいるんだろう、なんと呼ばれているの……。
彼の中に彼女の影を見つけるたび、ついそんなことを考えてしまう。
笑顔で相槌を打ちながら胸の痛みに耐える。「かなわないや」という気持ちは少しずつ少しずつふくらんで、私の思いをいまにも押し潰そうとする。