この十年間で私が読んだ小説はたったの四冊。が、それと同じくらい親しむ機会がないのが「映画館で映画を見ること」である。
テレビでちょっと面白そうな作品の予告を見かけても、「ま、レンタルでええか」「そのうち日曜洋画劇場でやるやろ」とあっという間に納得する。映画に関して“グルメ”でない私は生で見る迫力より、ソファにごろんと横になったり途中でトイレに行ったりできる気楽さのほうを選んでしまうのだ。
加えて、どうせ誰かと会うのであれば二時間黙ってスクリーンを眺めているより、おしゃべりをしていたいなあというちょっとケチな気持ちもある。
そんな私が先週の土曜、友人A子に誘われて映画を見に行ってきた。
「いつもは断るくせにどういう風の吹き回し?」については後ほど説明するとして、いやあ、びっくり。いったいいつの間に映画館はあんなに様変わりしていたんだ!
上映まで喫茶店で時間つぶしをしたのであるが、開場時刻の三十分前になってもA子はコーヒーを飲み終えない。
「そろそろ行かんと入れんくなるで。たぶんむっちゃ並んでるし」
とせかしたら、
「だからもうチケット買ってるって言うたやん」
とA子。
「チケットがあったって、定員オーバーになったら次の回まで待たなあかんやん」
すると、彼女は心底驚いた顔で言った。
「・・・もしかして知らんの?いま映画館って全席指定やん!」
「シネコン」という言葉は知っていたが、具体的にどういう映画館なのかは知らなかった。行ってみると、チケットカウンターがずらりと並び(以前はせいぜいふたつだった)、ファーストフード店まで入っている。広々としたフロアにはなんと七つもスクリーンがあり、いくつもの作品が同じ時間帯に上映されているという。
席に着いたら着いたで、シートはゆったりしているわ、ドリンクホルダーはついているわ、傘立てまであるわ、ですっかり感心してしまった私。友人曰く、私の記憶にあるような映画館は梅田にはもう残っていないらしい。
思わず「浦島太郎の気持ちがわかったわ・・・」とつぶやいたら、一番最近映画館で見た映画は?と彼女。
「『ターミネーター』やったかなあ・・・。いや違う、そのあと『タイタニック』見たわ」と答えたら、呆れのまなざしが憐れみのそれに変わった。
* * * * *
長いこと、コンビニのサンドイッチなんて食べられたものではない、と思っていた。
しかし最近、会社の昼休みにおにぎりが売り切れていたためやむなく買って食べてみたところ、なかなかどうして悪くない。冷蔵しているわりにはパンはふっくらしているし、玉子やトマトがボリュームたっぷりにはさまれている。何年もの間私がイメージしてきたパサパサでぺったんこで妙な調味料の味がするサンドイッチではなかった。
どうしてこれだけおいしくなったのだろうと思ったら、以前は商品の入荷は一日一便だったが、現在はできるだけ作りたてのものを提供するために何便かに分けて行われているのだそう。
最後に接したときの印象で私が敬遠している物事の中には、私の知らないうちに、知らないところですっかり進化していて、世の人はとうにそれに気づいて恩恵を受けているのに、私だけがそれを見直す機会を持たぬまま今日に至っているという事柄がきっとまだまだあるに違いない。
これは「人」についても言えそうだ。「いけ好かない奴だ」と近づかないようにしている人とも、時間の経過とともに互いが少しずつ大人になっていたなら、いまなら案外うまくやれるかもしれない。
どうして私が突然映画を見に行くことになったか、本題はそこからなのだけれど、長くなったのでつづきは次回。