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2004年10月13日(水) 「寄せて上げる」は許せても。

連休明け、始業のチャイムぎりぎりに出社してきた隣席の同僚にあいさつしようと顔をあげ、私は目を疑った。
「この三日のあいだに子どもでも産んだのだろうか……」
彼女の胸がいきなり倍の大きさに成長していたのである。
私の心の声が聞こえたのか、それともぶしつけな視線に気づいたのか、彼女はにんまりして言った。
「ふふふ。実は○○に行ってきたんよ」
○○というのは、心斎橋に本店を持つ有名なファンデーション・クリニック……といっても男性にはわからないか、つまり矯正下着の専門店である。彼女はバストアップを図るべく、そこのとってもお高いファンデーションを購入したらしい。
「いやあ、びっくり。金曜とは別人の胸やん」
「そうやろ。でも、店員のお姉さんにやってもらったときはもっとすごかってんで。下手くそやから、自分で着るとこんなくらいにしかならんけど」
脇から背中からおなかから、とにかくからだ中から余分な肉をかき集めてきてブラジャーのカップの中に詰め込む。聞けば、お尻の脂肪を胸に持ってくることも可能だとか。その下着を毎日正しく着用することによって、そういった出身地不明の肉をバストに“定着”させることができるのだそうだ。
「だから一日に何度か位置を補正せんといかんのよ」
よって、彼女のトイレタイムはこれまでよりうんと長くなった。

矯正下着といえば、以前ある男性からおもしろいメールをいただいた。美容整形について書いたテキストへの感想の中にこんな一文があった。
「男としては、整形以外にも憤慨するものがあります。たとえばブラジャー。“寄せて上げるブラ”は自前の胸を使っているということで、まだ許せます。しかし、まったく別のところにあった肉を無理やりおっぱいにしてしまう矯正下着は納得がいきません」
これを読んで思い出したのは、会社員時代の話。同僚のひとりがボディスーツを着けていることが発覚したとき、私たち女性が「本当に効果あるの」「トイレはどうやってするの」と彼女を質問攻めにしたのに対し、男性の反応は実に冷ややかであった。
彼らの言い分は、「あっちこっちの肉を寄せ集めてきて、これはバストだって言われてもな。そんなの反則だよ」というもの。彼女の胸は持ち上げようとするあまり不自然に高い位置についていたので、男性たちは「そのうち肩に載るんじゃねえの?」なんて意地の悪いことを言っていたっけ。
そして、私は彼らが彼女のことを皮肉たっぷりに「ボインダー」と呼ぶのを聞いて心底意外に思ったのである。恋人以外の女の胸なんて服の上から眺めるだけの代物なのだ。それならば天然もので貧弱なのより、養殖であろうが谷間が存在する胸のほうが目の肥やしになるんじゃないの?と考えていたからだ。
しかし、彼らは「量さえあれば、質は不問」というわけでは決してなく、背中の肉でできたバストは愛せないらしい。
高いお金を出し、窮屈な思いをしてでもボディラインを整えようなんてすばらしいじゃあないか。この涙ぐましい努力を評価しないなんて。ナチュラルメイクの不美人とばっちりメイクの雰囲気美人がいたら、迷わず後者を選ぶくせに不思議だ……。
想像するに、
「自分の知らないところで、女性が背中や脇腹の肉をバストに変化させてくれるのは歓迎だけど(そりゃあおっきいほうがいいもんネ)、その過程は知らされたくない。だって、ロマンが壊れるもん」
本音はこんなところではないだろうか。

どうやら男性の中には“つくられた胸”に対する「否」が存在するらしい……がわかったから言うわけではないが、私はその点かなり良心的なのではないかしらん。
大きく見せたいという女たちの願望はとどまるところを知らない。リアルなふくらみと揺れを追求したという特殊オイルパッドがあるかと思えば、冷やせばアイマスクとして使えるという便利なのかどうなのかよくわからないジェルパッドもある。
それをカップの中に入れるだけでバストの大きさは自由自在。矯正下着まで行かずともいくらでも深い谷間を作ることができるのであるが、私はそうあこぎなことはしていないつもり。
……なんてことを考えていたら、以前ある女性日記書きさんのオフレポに「でもねぇ、胸はわたしが勝っていました」と書かれたことを思い出した。
私の胸元を見てなぜだか気をよくしたらしい彼女はそのとき、いつも舐めているという“B-UP(バストアップ)ドロップ”を一錠くれたのであった。むきーっ。

【あとがき】
ご存知、「Kure's Home Page」の呉さんはテキストの中でこうおっしゃっています。「女性の胸は男どもの帰る場所であり、戦いの疲れを癒す桃源郷だ」と。聖地であるところのおっぱいは加工されたものであってはならず、「天然もので、しかもおっきいの」でなくてはならないらしい。そして「本物とニセ乳の見分け方」まで説いておられる。
「おっぱい本体だけでなく、肩や腕がそのおっぱいにふさわしいかどうか(それだけの大物を支えられる土台があるか否か)を見よ。たまに痩せてるのに胸だけボーーン!の場合もあるが、本物ならではの重厚感、厚みが伝わってくるはずだ」
男性というのはまったくおもしろいことを考えるものですね。よりかっこよく、より大きく見せたい女と、それを見破ろうとする男。おっぱいをめぐる攻防はまだまだ続きそうです。