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2003年12月29日(月) 男はなぜかくも横着なのか

夫の会社の同僚ふたりが九州から焼酎を手土産にして遊びにきた。
来客は掃除だなんだとなにかと面倒くさいものであるが、うちの場合はたまのことであるし、私もそういうのが嫌いではない。朝からはりきって買い物に行き、肴になりそうなものを七、八品作った。
夕方、わが家に到着した彼らはすぐに飲みはじめた。私も席に着いて一緒に話をしたのだけれど、いろいろと発見があっておもしろかった。
独身でひとり暮らしのAさんはまめに自炊をするそうだが、食器を洗うのだけは面倒でしかたがないという。たとえばおでんやカレーを作ると大量にできてしまうため、つづけて何食も食べなければならないが、そんなときは食べ終えた皿を洗わないらしい。彼曰く、「次もどうせ同じものを食べるんだし」。
これには思わず「そういうとこは男の人だなあ」とつぶやいた……と言ったら、世の男性に叱られてしまうだろうか。しかし、料理下手や家事嫌いの友人はいくらでもいるが、女性の口からこういうことをしていると聞いたことはない。
そうかと思えば、ほんの数分席を外してダイニングに戻ってきたら、テーブルの上がやけにすっきりしている。ふとシンクを見ると、空になった食器が積まれていた。
そのていねいな皿の重ね方、水にまでつけてあったことからも夫の仕事でないことは明らかだったが、はたしてBさんであった。既婚の彼が夫に言う。
「おまえもたまには皿くらい洗えよ。それが嫌なら、食器洗浄機買ってあげるとかさ」
へええと驚く。彼の奥さんは専業主婦と聞いている。なのにBさん、家でお皿洗ったりするんですか?
「もちろん。俺ね、汚れた鍋とか皿はすぐに洗わないと気がすまないの。テーブルの上とか流しにほうっておくの、気持ち悪いんだよね」
聞き終えるや否や、私はスポンジを引っ掴んだ。
男の人が家の中でどんなふうに過ごしているのかには興味がある。先日、テレビで『北の国から』を見たのだけれど、純と正吉のふたり暮らしの風景は私の目に新鮮に映った。自炊をすれば皿に移さずフライパンからそのまま食べる。鍋敷きはもちろんそこいらにあった雑誌だ。服を脱ぎ散らかし、上半身裸で片膝を立ててたばこを吸い、歯を磨きながら部屋を歩き回る。
男だけの生活というのは、だいたいがこんなふうにがさつでだらしのないものなんだろうなと思ったら、ふと懐かしい気分になった。学生時代、男の友人の家に遊びに行くたびに彼らの横着さ、もとい合理主義を目の当たりにし、あきれるやら感心するやらしたことを思い出したのだ。
コーヒーを入れてくれるのはありがたいが、驚くべきはその作り方。彼はマグカップに水とインスタントコーヒーを入れ、電子レンジにかけたのだ。たしかにケトルで沸かした湯をカップに注ごうが、「水+粉末コーヒー」を温めようが出来あがりは同じといえば同じよね……と思おうとしてみたが、やはりあまりおいしくはなかった。先入観のせいだろうか。
きれい好きで通っている男の子の部屋を何人かでスナック菓子を持って訪ねたところ、一人一枚チラシを配られた。皿の代わりにそれで受けて食べるようにということだったのだが、うちのひとりはポロポロとよくこぼしたため、ついに「この上で食べろ」とゴミ箱を差し出されていた。
また、別の男の子は食べ終えたカップ麺を持ってトイレに入った。どうしたのかと思ったら、残った汁をトイレに流してきたというではないか。「シンクを汚さなくてすむだろ?」には驚愕。そうそう、いちいち皿を洗わなくてもよいようにとラップを敷いた上に料理を載せ、食べ終えたらラップごと捨てる、そしてまた敷く、を実践している友人もいたっけ。
よくまあ、こんなことを思いつくものだ。生活からできるだけ手間を排除しようとして生まれたアイデアには恐れ入る。

ひとり暮らしをしていた頃、つきあっていた人がティッシュペーパーの空き箱を分解し折りたたんでゴミ箱に捨てたのを見たときは感動した。母親がそうするのを見て育ったのだろうが、ああ、いいなあと思ったものだ。
先週末、義弟が泊まりがけで遊びにきた。翌朝目を覚ましたときには彼はすでに起きて新聞を読んでいたのだが、客間に敷いた布団はきれいに畳まれていた。
躾というほど大層でない部分がきちんとしている人ってすてきだ。
「寝食を共にする」という言葉があるけれど、誰かを知りたいと思えば「寝る(sleep)」と「食べる(eat)」を共有してみる、それがもっともてっとり早く、もっとも確実な方法である気がしている。
そして、その相手が異性だった場合。「寝る」にもうひとつの意味あいが加わるのは言うまでもない。

【あとがき】
私は人妻なのでよその男の人と「寝る」機会はないわけですが、こんなふうに一緒に食事をすると、いろんな男の人がいるもんだなあと思いますね。食べている横でカチャカチャと洗いものをされたら、手伝わなくて申し訳ないとかせわしない気分にさせてしまうだろうと思っていたのですが、Bさんには無用の気遣いだったみたい。彼は帰るとき、空になった缶やペットボトルを全部水ですすいでくれ、さらに私を驚かせたのでした。